神憑き夫に噛み付かれる神待ち妻と厄払いお婆ちゃん
「お節福袋また外れた、味付けもイマイチ」

 正月早々文句ばっかり垂れる妻を俺はこれでもかという程こよなく愛してしまっていた。

「だからって夫にお節作らせる妻が何処にいんだよ。味比べてみて」

 愛してしまった、そんな女心で俺は、何人もの恋人とたった一人の恋人を天秤にかけ、国立大学を卒業するのと同時に結婚した。

「口には入れてみる」
「俺も甘くしてみる」

 俺は自分の作ったお節を妻の扇皿に取り分け、口に入れる箸は妻に運ばせる。すると、俺は彼女の手を引っ張る様にお節を作ったご褒美を貰おうとした。

「買って来たのよりは美味しいと思う」
「俺も」
「意味わかんない」
「貢ぎたいんだって」
「注ぎたいの間違い。正月くらいおやすみするってさっきまでシテたでしょ」

 ソファに後頭部を支えてもらった俺は、妻に年がら年中夢中になってる思春期であり、それは毎朝毎晩子作りしても子どもがいない発情期からでもあった。

「だったら初詣一緒に行く。元旦で混んでそうだけど」
「その顔は神社に似合わない。行けるようにしてあげるにもお口でよ、もうこっちは疲れちゃってるから本当に勘弁して」

 夫の妻の総てをお世話したい愛が強まる一方で、その愛をお世話しないといけない妻は夫の総てへの愛を強めようとイチャラブの悪循環に陥っていた。

♢♢♢

「すう…すう…すう…」

 頭も空っぽになった俺はライオンの腕枕で、なんだかんだ言いつつも空っぽにさせてくれた妻の寝顔を見ながら眠たくなって来るが、多動症に足指で脚を掻く。

「ちゅ、初詣行きましょ。可愛い顔になってる」
「ちゅ、満たされた。お前よりいい女なんかいないよ」

 俺の妻のなにが好きかっていうと愛し放題してもいい性格にあった。それもあって、モテたがるばかりかまるでそうではなさそうなことばかり話してる他の子にはまるで眼中になく、馬の耳に念仏と、極限的な愛妻家の一途を辿らせてくれたのも総ては妻も愛夫家の一途を辿ってくれたからであり、美人であってもSNSさえ閲覧目的でしか利用しない俺にない貞操観念の高さも尊じ、支配独占欲が満たされると、毎日の感謝が絶え間ない夫婦生活を送っていた。

♢♢♢

「やっぱり混んでんな。呼んでよかったわ」
「美味そうに飲むじゃんかよ、車何処止めた?アイツら停めれねえって連絡入ってんのスルーすんなよ」
「歩きだって、大丈夫そ?」

 コンビニの駐車場の隅でホットコーヒーを飲む夫婦は、妻の人前にいられない程脳が溶けちゃってるのを歩きで神社に向かいながら時間をかけて冷ましていた。

「歩けました。自分を過信しないでよ」
「笑かすなって、銀行に停めたってよ」
「合流してクジでも引きに行きますか」

♢♢♢

「男しかいないんだけど」
「機嫌悪くされたら困るし、あけおめ♪」
「なんだその格好、それに頭(笑)」
「なんの影響?」
「紅白感動した。前髪気にしてた頃に戻りたいから合わせろって」
「ネタに欠かさないっすねえ〜それで5人っすかって足りませんね?」
「アイツらで参列待つ。妻にもだが、みんなにも共有、いつだってそうだろ?俺は赤だけど、颯馬は金髪で、光瑠はホワイト、優児は中間のメッシュ入れてくれ」
「紅白観てねえしわかんねえって動画あんの?」
「まさか私、あのオカマ系!?」
「男子グループに男装で入れって、ブームブーム」

 詳しくはXでよろ。ジャンル実話ってすんにも規約怠すぎんだろ!

♢♢♢
「ビビんねえな」

 成人式から一向に美貌が落ちない年齢不詳な5人グループが鴨居を潜れないでいた。ボーカルの二人がLサイズコーヒーを持ち、妻がMコーヒー、残る二人がSサイズコーヒーな目立ち方らしいを手に取っている。

「なんでだ?」
「公共の場だからじゃないですか?」
「平和じゃないの、大人しく並びなさい」
「警戒はされてるみたいですけど、見るからにホスト過ぎますかね?」
「知らん。俺はそんなことよりも」
「ちょっと」

 参列を始め、グループの先頭の俺と妻の目の前にお婆ちゃんが一人で並んでいた。その前には中高年層の夫婦、周りを見渡すと、若いのはいてもダンスグループを動画で観てくれてそうな極普通な顔立ちと体型ばかりで、絡んでも問題なさそうとお婆ちゃんに声を掛けてみる。

「芳乃、二礼 二拍手 最後に一礼、ですよねお婆ちゃん?」
「」
 振り返ったお婆ちゃんがじっと顔を見つめて来る。

「頭の色変ですよね、きっと神様に怒られちゃう」
「そうとも限らんよ、老人に良くさえすれば」
「この人こんな見た目ですけど、とっても優しいんです」

 俺はハマってるに真似て微笑んでるのに怪訝そうに返すお婆ちゃんに、妻が助け舟を出す。これでも社長夫人なのだ。

「そうか」

 全く信じてない様に前に視線を戻すお婆ちゃんの横に立ってみる。

「なにが嫌いなんですか?教えてください」

 俺は偏見を持たれたら必ず聴き返す男だった。悪い男だと勝手に決めつけられる人生を歩まされていたからでもある。

「」

 答えずお婆ちゃんは列を突き進む。なんとかしてくれと腕を組みながら肘を妻の肩に当て、次の出方を見ることにした。

「気を悪くさせて申し訳ありません。礼儀がなってないですよね?わかります」
「言っとらん」

 なんで冷めてるんだ婆ちゃんはと気になって来る。俺はダイスを手の中で転がす様にジャグラーのストラップを弄る。

「大吉で誰がペカるか賭けてみねえか?お婆ちゃんも含めて」
「大吉が出た人にはもれなく俺が付けてるモン一個やるよ」

 金で遊び出した若者にお婆ちゃんはどう出るかと伺っていると…

「」
「ちょっと、テーマパークじゃない」

 知らんぷりだった。頬を膨らませ、眉を上げた俺は、ストレス緩和にも妻の身を抱き寄せる。

 ふしだらにお婆ちゃんはどうでると、甘い声で妻に語りかけてみることにした。

「あそこで口濯ぐじゃんか?乾く前にちょーだい♡」
「いーや。ハンカチで拭くわよ」
「俺ので拭くって、可愛いし」
「罰が当たるぞ」

 お婆ちゃんの声に目を丸くするのは、俺と妻だけではなく友達もであり、他の人も凍りつく様に、話し待ってるのを止めた。

「タブーでしたか。知らず面目ない」

 初詣にそんなタブーはないが、イチャイチャするのが穢れとすればそれはタブーだろう。そんなお婆ちゃんルールに列は進む。

「アナタ、弄ってるように聴こえるんだと思う」

 妻に耳打ちされ、お婆ちゃんの嫌いが見抜けてきた。コミュニケーションがそもそも苦手だったみたいだと静かに進んでいくうちに、賽銭箱の前にまで来た。此処だ。

 お婆ちゃん一人では可哀想だから、妻の手を引っ張り、
神様への感謝から入り、お願い事をする。

「お婆ちゃんがこの一年、健康で幸せであれますように」

 妻が俺の顔を凝視する。キマった。滅茶苦茶イケメン。
お婆ちゃんはどうかというと…

「」

 感動したのか泣きそうになりながら、御神籤に行こうとする。すかさず俺は、イケメンなら何しても許されるを信じて疑わない手で、お婆ちゃんの手を握る。

「お婆ちゃんの参拝に真剣な気持ちを邪魔してすみませんでした。カッコよかったです」

 ニ百円を賽銭箱に入れて、クジを二枚引く。一枚捲って大吉、それをお婆ちゃんに渡してみた。

「受け取っておくよ」

 なんでかお婆ちゃんもクジを引きそれを俺に渡してくれた。

「マジかよ…」

「アナタ、お婆ちゃん追いかけなくていいの?(笑)」

 恥ずかしがる様にお婆ちゃんは急足で何処かに消えてしまったのだが、俺は文句を言えないでいた。

 だって、その御神籤も大吉だったから。

「みんな集まってくれ」
「ヤバかったわ」
「なにしてるんですか」
「正気とは思えない」
「こんな感動する初詣初めてです」

「お婆ちゃんでもだ。芳乃、俺に気をつけろ」

 wonder 俺だって神社だってそうだ。恋結びもそれで占っちまえばいいんじゃねえか? 俺はお前のモノだけどよ♡
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