年の差十五の旦那様 外伝①~捨てる恋あれば、拾う恋あり?~
「だから、気にしないでください。私もあなたのために駆けまわれてよかった」

 ぎゅっとコップを握った。そのとき、私たちの足元に猫がやってくる。

 白い毛はわずかにくすんでいて、野良猫だろう。

「にゃぁっ」

 猫が男性を見つめた。猫の視線はサンドイッチに注がれており、猫もお腹が空いているのだろうか。

「首輪はしてないようですね」
「えぇ、そうみたいです」
「野良猫ですか」

 つぶやいた彼は、サンドイッチのパンの部分を少し千切って、猫にあげていた。

 猫はパンを美味しそうに食べている。

「ははっ、可愛いですね」

 ……私に向けての言葉じゃない。

 わかっているのに、どうしてなのか。彼の言葉が私の胸に突き刺さる。

 ノーマンもよく私のことを「可愛い」って言ってくれたっけ。

「っつ」

 涙が頬を伝った。今更だ。今更だとわかっているのに、涙が止まらない。

「え、えぇっと……」

 彼が狼狽えているのがわかる。私は必死に涙を拭う。なんとかして笑おうとするのに、上手く笑みが作れない。

「ごめんな、さいっ……。ちょっと、いろいろとありまして……」

 必死に涙を拭っていると、男性がなにかを唱えた。彼の手元にきれいな布が現れる。

「目を手でこすらないほうがいいですよ。あの、その、なんていうか」

 彼の言っていることくらい、わかっていた。でも、ついつい手でこすってしまうのだ。

 後から思うと、私も彼みたいに魔法で布を取り出せばよかったのに。そこまで頭が回っていなかった。
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