年の差十五の旦那様 外伝①~捨てる恋あれば、拾う恋あり?~
 彼の手から布を受け取って、涙を拭う。メイクが落ちているような気がする。けど、そんなことどうでもいい。

 ――私のことを好きだとか、可愛いとか。そう言ってくれたノーマンはもう居ないのだから。

「そ、その。俺でよかったら話くらい聞きますから……」

 彼の声は震えていた。もしかしたら、彼は女性の扱いに慣れていないのかもしれない。

 まぁ、突然泣き出した女性の扱いなんて、知っているほうが珍しいのかも。

「俺、アシュリーって言います。アシュリー・エインズワース」

 彼が名乗る。あぁ、自己紹介もまだだった。

「私はロザリアです」
「……ロザリア、さん」
「はい」

 ノーマンよりも低い声が、私の名前を呼んだ。

 わざわざ私のことをさん付けで呼ぶということは、丁寧な人なのだろう。

「アシュリーさまは」

 今度は私の口が彼の名前を呼んだ。

 彼が首を横に振る。

「さまなんてつけないでください」
「で、ですが……」

 エインズワース家とは貴族の家系だ。しかも、ルシエンテス子爵家よりも上の伯爵家だったと記憶している。

 ……でも、あれ?

「お、お貴族さま……ですよね?」

 私はアシュリーさま……さんを見つめた。彼は気まずそうに視線を逸らす。

 お貴族さまが空腹で倒れていたの!?
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