僕の10月14日
 
 昨日の雨がウソのように晴れ渡り、ここが東京だとは思えないほどに澄きった空気が僕の肺を浄化した。公園横の一方通行の並木道は樹々が煌めきまぶしかった。こんな日はどこかに遠出したいものだが、なんでバイトなんだろうと悔みながらも気分よくバイクを走らせた。
 鼻歌を歌いながら走っていると、並木道の太い木の陰からサッカーボールが道路に転がってきて、その後ろから小さな男の子が走って来た。僕は冷静にボールも男の子も大きくよけた・・・

が・・・そこには・・・蛙がいた・・・


「ん? えっ? うわぁ~~~」


 すごい音のせいだろう人が集まって来たのが見た。男の子はその音に驚いたのか泣きわめき、その様子に人々はその男の子のところに駆け寄った。僕のところには誰一人来てくれる感じはなかった。

 しばらくして、散歩中らしきおじいさんがそっと腰をかがめて声を掛けてくれた。

「君、大丈夫か?」

「あっ、ダメそうです。多分、手と足が折れたかと・・・」

「救急車呼ぶな。」

おじいさんは、ポケットから携帯を取り出し救急車を呼んでくれた。


 間もなくして自転車に乗った警官が到着した。

「どうしました? 」

警官は冷たい声で聞いてきた。

「あの公園からボールが転がってきて、その後ろから男の子が飛び出してきました。それをよけたらそこに蛙がいたのでそれもよけたんですけど転倒しました。」

「蛙? 本当? スピード出していたんじゃないの?」

「そんなに出してないですよ。ホントに蛙がいたんですよ。」

「でもよけきれなかったんでしょ? それが証拠に縁石あんなに壊れているし。」

「全部よけましたよ。だから僕は怪我をしたわけで、男の子も蛙も傷一つないはずですよ。」

警官は冷たい目で僕を見た。信用していないのがありありと分かった。ムカついた。僕も思わず警官を睨んだ。変な空気の中、やっと救急車のサイレンが聞こえてきた。

 
 救急車からガタイのいい救急隊が2名降りてきた。

「大丈夫ですか? どこか痛いところは? 」

「縁石とバイクに挟まれて左足を骨折したかもしれません。左腕も感覚ないです。」

「頭は打った?」

「いえ、ヘルメット被っていたし頭は大丈夫です。」

救急車からガチャガチャと音を立ててストレッチャーが降ろされ、僕はそれに乗せられ、
人生で初めて救急車に乗った。
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