僕の10月14日
7月に入りここのところ雨が多い。雨、雨、晴、晴、雨、雨、晴、雨・・・こんな感じの天気が続いている。
3日間雨が続いた日の夕方には雷が激しく鳴り窓の外で光と音を放っていた。
「梅雨明けだね。」
僕は湿布の交換にきていた若い看護婦に言った。
「えっ、そうなんですか?」
「そうだよ、梅雨の最後の頃に雷が鳴ると、梅雨明けだよ。」
「あの、気象庁の方ですか?」
「アハハ、違うよ。お袋がね子供の時にそう教えたくれたんだ。それから毎年なんとなく気にしているんだけど当たっているよ。」
「へー。面白い・・・」
なんだか頼りない看護婦だと鼻で笑ってしまったけど、こんなたわいのない会話も今は楽しい。
次の日からすっかり晴れた。やっぱり昨日の雷で梅雨明けだと僕はほくそ笑んだ。
リハビリの部屋の窓から外を見ると、少し先に中庭がありそこにはベンチがあるのを見つけた。天気もいいからリハビリ後この中庭に行ってみることにした。
中庭は芝生で周りには舗装された歩道があり、その横には等間隔で白いベンチが3つあった。あまり来る人がいないのか、この日は偶然いなかったのかわからないけど、だれも座っていなかった。僕は本と携帯とペットボトルの水をコンビニの袋に入れて持ってきた。
歩いていくと大きな木があり、そこにもベンチがあった。ここのベンチは茶色だった。ここだと少し木陰になり心地よさそうなのでここに座ることにした。
空気が美味しかった。そよ風が吹き、どこからか花の匂いがするような気がした。ベッドで本を読もうと本を開いた時は文字を見ただけで秒殺で眠くなった。でもここだと気分も変わって読めるような気がした。本を読むなんて久しぶりだったが、サスペンスものだったので意外と読めた。
一時間くらい本を読んだ。少し疲れたので、本をベンチに伏せてペットボトルのお水を飲んだ。ペットボトルから口を放そうとして前を見ると遠くに女の子が立っているのが見えた。僕が彼女に視線を向けると、彼女は慌てて踵を返して来た方向に戻って行ってしまった。
― 綺麗な子だったな・・・
髪の毛が長くて前髪は目の上で揃えていた。
― 白い服に何か羽織っていたみたいだけど、入院患者かな?
次の日も同じ時間に同じ場所に行って本を読んだ。だけど彼女のことが気になって、昨日よりページが進まなかった。
昨日と同じことをすれば彼女が来るかな、なんて子供みたいなことを思いながらベットボトルの水を飲んだ。すると本当に彼女が現れた。
― 来た!
彼女は僕の方を見た。僕は思わず手を振った。普段はそんなことが出来るキャラではないのに思わず手を振った。しかし、彼女はまた踵を返して戻って行った。その時僕は足を怪我していることをとても悔やんだ。
― うわっ、驚かせちゃったかな・・・足が悪くなければ追っかけるのに・・・