僕の10月14日
同じことをしていれば彼女が来ると願い、今日も本を読みながら待つことにした。しかし本を読んでいると直ぐに眠くなり寝てしまった。今日のリハビリの先生が厳しくてちょっときつかったからだろうか・・・
― あれ・・・しまった! 寝ちゃった・・・
目を覚ますと目の前にあの子がいた。
「わぁ・・・」
「あっ、あの・・・大丈夫ですか?」
「ああ、寝てただけだから・・・」
「良かった、本を落としてうなだれていたから具合悪いのかと思っちゃいました。」
「ありがとう。まったく大丈夫だよ。」
「・・・良かった。」
「ねえ、良かったら座らない?」
僕はベンチに座るように彼女に言った。
「何だか、あなたのベンチみたい・・・」
「ここいいでしょ。一昨日に見付けたの。木陰だし少し離れているから殆ど人が来ない。」
「うん、知ってる。だってここはあなたが来る前は私が毎日来ていたところだから・・・」
「えっ、そうなの? 僕が君の居場所奪っちゃったの?」
「まあ・・・そんなとこ・・・」
僕はあわてて歩行器を寄せて立ち上がった。
「ゴメンネ。どうぞ。」
「ううん、座ってください。あのーよかったら少しお話しませんか?」
「いいの?」
「病院だと友達いないし・・・私の周りに年の近い人いないの・・・」
「そっか・・・僕でよかったらいくらでも付き合うよ。」
彼女は僕の隣に座った。
「私、華菜。あなたは?」
「僕は亨。22歳。大学生だよ。」
「私は19歳。大学生だけど今は休学中。」
「へー、どこの大学? 僕はH大の商学部。」
「私はT音大、フルートやってたの。」
「へー、なんだかピッタリだね。」
「そう?」
「長い髪にきれいな白い手・・・フルートを持っているところが想像できるよ。」
「ありがとう。子供の時にフルートを演奏している隣に住むお姉さんにあこがれて、自分も同じようになりたいって、何でも真似したの。」
「可愛いね。君の子供の時見てみたかったな。でも君がフルートで音大行ったらそのお姉さん喜んだでしょ?」
「お姉さんは私が中学生の時にウイーンに行ってしまって、向こうで結婚しちゃったからもうずっと会っていないし、どうも音楽も辞めちゃったみたい・・・どこにいるのかも知らないの。それでも昔のお姉さんにあこがれているし美化してる。」
「いいんじゃない、それで。」
「いいのかな?」
「いいんだよ。僕らが芸能人見るときに勝手に自分のいいように美化しているのと同じ。」
「そうね・・・いつまでもあの時の素敵なお姉さんでいいのね。」
「こんどは君が素敵なお姉さんになればいいんだよ。」
「フフフ・・・そうなりたいかな。」
「なれるよ君なら。今でも十分素敵だよ。」
「・・・ありがとう。元気出た・・・」
「それは良かった。」
「あっ、そろそろ戻らないと・・・」
「そうか。」
「あの、明日もここで会えますか?」
「いいよ。」
「私がここに来られるのは1時半から3時前までなの。」
「わかった。じゃあまた明日。」
「また明日・・・」
彼女は微笑んで戻って行った。僕は彼女の後姿をじっと見ていた。歩くと髪の毛が揺れて、服や羽織っているカーディガンも揺れて・・・その全てが綺麗で、かわいく想えた。
ー はやく・・・明日にならないかな・・・