僕の10月14日
次の日、僕も検査が入った。手足共にレントゲンを撮った。手の捻挫はほとんどいいので、歩行器が肘で支える松葉杖に変わった。骨折の方も順調だと先生は言った。そしてそろそろ退院も考えようと言われた。
― ダメだよ。僕はまだ病院に居たい・・・
今日は彼女が来ない。だからいつもと違う道を通った。歩行器から松葉杖に替わって慣れないけど練習もかねて少し動きたかった。
いつも行くコンビニで今日はコーヒー牛乳を買った。普段なら絶対に買わないし、もともとたいして好きではない。お爺ちゃんに連れていかれた銭湯で飲んだ小学生の時以来だと思い返した。それなのになぜかそれを買って、コンビニ袋をぶる下げて松葉杖で不器用に歩き出した。コンビニを出たところで真っ直ぐベンチに行くのではなく逆の方に行ってみることにした。
少し行くと、この病院が経営している老人ホームがあった。その入り口から建物までの間、濃いピンクの花を付けた木が歩道の両側にいっぱい植わっていて花のトンネルのようで綺麗だった。
― あの花は何だろう? ベンチで感じた香りはこの花のかな? 華菜ちゃんなら知っているかな花の名前・・・
次の日、ベンチで彼女を待った。
「おまたせ。」
「おう。ねえ、今日は少し歩かない? 」
「どこまで?」
「これから一緒にコンビニに行って、そのあと少しだけ歩いてそれでここに戻ってくる。大丈夫?」
「うん。あっ! 亨さん、松葉杖に替わってる・・・歩けるの?」
「ああ、松葉杖に変わってまだなれないから歩くの遅いけど、華菜ちゃんがそれでも良ければ・・・」
「うん。ぜんぜん問題ない。私も少し歩いたりしなくちゃいけないから。」
二人はゆっくりとコンビニに向かった。
「何でも好きなものどうぞ。」
「どうしよう・・・」
華菜ちゃんはコンビニに来るのが久しぶりなのか、キョロキョロして目がキラキラして可愛かった。
ー なんだか小学生みたいだな・・・かわいい・・・
「僕はフルーツ牛乳にしようかな。」
「えっ? 好きなの? 」
「ううん。飲んだことないから飲んでみようかなって。」
「これって、銭湯にあって、風呂上りに腰に手を当てて飲むやつ?」
「そうだね。銭湯には普通の牛乳の他にコーヒー牛乳とフルーツ牛乳があるかな。」
「じゃあ、私はコーヒー牛乳にする。あとで二人並んで飲もうよ。」
「ハハハ、面白い。ねえ、華菜ちゃんは銭湯になぜ牛乳があるか知ってる?」
「えー、知らない。」
「昭和の30年代、まだ家庭に冷蔵庫が普及していなかったときに牛乳メーカーが風呂の後に冷たい牛乳を飲んでもらうっていう、メーカー戦略だったらしいよ。」
「へー、なんでそんなこと知っているの?」
「小さい時に爺ちゃんに教えてもらったんだ。」
「亨さんはお爺ちゃん子だったの?」
「そんなことないかな。銭湯には連れていかれたって感じかな。」
「へー・・・」