僕の10月14日

コンビニを出た。

「右に行って。」

「どこ行くの?どのくらい?」

「10歩くらいかな?」

「ホント? 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10・・・」

華菜ちゃんは振り返って僕を見た。そして首を傾げた。

― クソカワイイ・・・

「ゴメン、あと5歩。」

「1.2.3.4.5」

「右見て。」

「えっ?・・・あっ、綺麗・・・」

「綺麗だよね。昨日あれを見付けてさ、華菜ちゃんに見せたくて・・・」

「凄いね、花のトンネル・・・ずっと建物まで続いてる・・・」

「ねえ、あの花何?」

「知らないの? あれはサルスベリ。 木登りがうまいおサルさんでも幹がつるっとしているから登れないというところから名付けられたらしいの。別名百日紅とも言って、100日位花が咲き続けるからそう言うの。」

「すごーい。花に詳しいんだね。」

「そうでもないよ。この百日紅は偶然知っていただけ。だから花に詳しいって程でもない。子供の時に母にあれ何?って聞くと必ず、辞典を読むかのように詳しく教えてくれたの。だから知ってただけ。」

「さすがに先生だね。」

「そう。初めはね興味本位でいろいろ聞いていたんだけど、段々そこまで聞いてないよ、ってことが増えて面倒くさくなって、母には聞かないようになっちゃった。」

「なんとなくわかる。」

「でもね、不思議なもので子供の時に聞いたことって覚えているの。急に私の引き出しから出てくる。」

「お母さんはそれを知っていたから華菜ちゃんにしっかりと教えたんだね。」

「そうかも・・・もっと聞いておけばよかったのかな・・・」

「今度会ったらなんか聞いてみたら?」

「えっ? そうね。何聞こうかな・・・」

「数年ぶりに聞いたらお母さんどんな顔をするんだろうね。」

「この娘は、いい歳してまだ私に聞くんですか? と言う顔か、えーまだ聞いてくれるの? っていう顔か・・・どっちかな・・・ 」

「どっちだろうね。」

「ちょっと楽しみかも・・・」

「いいね。華菜ちゃん、何聞くか考えなくっちゃね。・・・」

華菜ちゃんは何か考えている様子で、花を見つめていた。


「・・・さてと、そろそろ戻ろうか。」

二人は来た道をゆっくりと戻って、いつものベンチまで行った。

「大丈夫? 疲れなかった?」

「大丈夫。楽しかった。ネー早くあれやろうよ。」

コンビニの袋からフルーツ牛乳とコーヒー牛乳を出して並んで飲んだ。僕は出来なかったけど華菜ちゃんは牛乳を持っていない手を腰に当てていた。

― めちゃ、可愛い・・・ヤバイ・・・

「面白い。コーヒー牛乳なんて小学生以来かも。」

「実はさ、昨日僕もコーヒー牛乳飲んで同じこと思った。」

「そうだったの・・・で、フルーツ牛乳はどうなの?」

「甘いかな。でもなんか初めてだけどノスタルジックな味かな。 飲んでみる?」

― こんなこと言っちゃったけど、華菜ちゃんなんて言うかな?

聞いてから間があった。僕は聞いたことを後悔した。どう挽回しようかと少し微笑んでごまかそうとしたとき、

「飲んでみる。」

と言って、僕の手からフルーツ牛乳を奪って飲んだ。

「ホントだ。なんかノスタルジック・・・」

華菜ちゃんはフルーツ牛乳を僕に突き出した。僕は受け取って、残りを飲み干した。
華菜ちゃんはそれを微笑んで見ていた。

「今日はもう戻るね。楽しかったし、綺麗だった。ありがとう。また明日。」

「ああ、また明日・・・」

僕は平常を必死で装っていたけれど、間接キスを喜んでいた。

― いったい俺は幾つだよ・・・彼女はどういう気持ちで俺のフルーツ牛乳を飲んだのかな・・・あー・・・まいったな・・・
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