あたしの愛を受け取りやがれ!〜ひなのと彼女の物語〜

突然の告白。

「これで最後、どうしても伝えたい誕生日おめでとう、だけ言って辞める」
そう覚悟を決めたひなのは、お決まりのスマホのメモ帳に、伝えたい気持ちを書き綴った。

その文章がこれ。
「柚果、お誕生日おめでとう!
覚えてたよ~良い1年になるといいね。
わたしはいつも、柚果の味方だよ〜!
生まれてきてくれて、本当にありがとう!
今度良かったら、通話しようね~」

そしたらさ、これに対してはカナリ早いタイミングでありがとう、って来たんだよね。
ひなの、良かったね♡って言いたいほんと。笑
でもさ
「通話しようね〜」ってのに対してはスルーだった。そんなの気にしなければいいのに。
こーゆーとこで気にしてしまうのは、ひなのの悪い癖だった。気にしぃの宿命なんだろうか……。
ひなのはそう思った。

実はこの数日前、ひなのは部屋で1日中泣いていた。
なぜなら、このおめでとうDMを送ったら、もう2度と送らないって決めちゃってたから。
そうすることで、その辛さから逃げたい。
そう思ったのさ。
なんでそんな思考になるの?って謎な人も多いとは思うが、ひなのはそんな風に考えてしまうタイプだった。

返事がもらえなくて辛い。
だからそのことから逃げるために、送るのをやめる。
そしたら、もう辛い思いはしなくていいって。だけど、本心は……。
もう2度と送れないのは辛いし悲しいって感じてた。だから泣いてしまっていたのさ。
難しいね。基本、ネガティブシンキングなひなのにはこんな考え方しか、できなかったのさ。

でも、そのあともやりとりは続いた。
「ちゃんと誕生日覚えてたよ~!忘れずに♪
最近も眠れてないんでしょ?
わたしもさ、大学の時に眠れなくなっちゃって、病院で薬もらって飲んだ時あったよ。だから、不眠の辛さはよく分かる。
メンタルも身体もしんどいよね。
どうにかして、眠れるようになるといいんだけど」

この言葉達はひなのの本心をしっかりと伝えてくれたはず、ひなのはそう思っていた。
言葉って不思議。使い方によって、いろんな伝わり方をする。
だからこそ、言葉選びはとても大切だ、とひなのは感じていた。
言葉1つで、相手の心を喜ばせることも、反対に嫌な気分にさせることもできる。
ひなのはそれを良く分かっていた。
その後はたわいもない会話が少しだけ続いた。なかなか返事がなかったので
「こんなに嬉しいことがあるだろうか?」とひなのは思った。

彼女、柚果は絵を描く人だった。
すごく魅力的で何より、ひなのが好きなタイプの絵を描いていた。
彼女に惹かれたのは、彼女の描く絵のためでもある。
それは初めて見た時から、ひなのの心を掴んで離さなかったのだった。

ある日彼女がエックスで
「ほかの人から描いて欲しいと言われていた絵を描かずに、自分の描きたい絵ばかり描いていて申し訳ない」という意味合いの言葉を発していた。
そこでまた心配をしたひなのが、こんな風に声をかけたのである。

「お疲れ様。ほかの人の絵を描かないで、自分が描きたい絵を描いたって大丈夫。
気にしなくていいよ!謝んなくてもいい。好きな時に、好きな絵を描け~!」
ってね。そのとき彼女は
「ありがとう!気が向いたら描いてみるね」と送り返してきた。ひなのはその短い文章をもらっただけで、ただただ素直に嬉しかった。

そして、ここからが、本題だよ!!
みんな、心して聞いてよーーー!!

まぁ、読んでくれているみなさんには、まる分かりだとは思うけど、
そのころのひなのは、彼女にすっかり惹かれていた。
頭の中は常に彼女のことでいっぱいで、その気持ちをどこに持っていったらいいか、ひなの自身、全く分からなくなっていた。ひなのは自分に問いかけた。
「これは、果たして恋なのだろうか?それとも、ただの友情なのだろうか?」と。

その後、しばらくの間、柚果と連絡をとることはなかった。
ただ1つ、確かなことは、ひなのが1日たりとも、彼女のことを忘れた日はなかったってこと。

ある日、ひなのは何を思ったのか、柚果に唐突な質問をした。
「ねぇ、1つ質問なんだけど、柚果は今まで付き合った人の中で、忘れられない人っている?」
その返事はこう。
「う~ん、そもそも1人としか付き合ったことないから、その元カノくらいかな?」

ひなのは続けてこんなことを聞いた。
「そ~なの?じゃあ、あの、Aさんとは付き合ってないの?」

Aさんとは、柚果が配信の中で仲良くしていた男性。
前の配信に行ったときに、2人で会話しているのを聞いたのだが、その時の内容は柚果がAさんの住んでいる県に遊びに行く、というようなものだった。
それを聞いていたひなのは、てっきり2人が付き合っているものと思い込んでいた。

ひなのは続けた。
「前に配信に行ったときに、Aさんの住んでいる県に遊びに行くって言ってたから、てっきり付き合ってるのかと思ってた」
すると柚果は
「あぁ、Aのことか~、いや現在は誰とも付き合ってないよ。
フリー。もともと、フットワーク軽いから、いろんなところに遊びに行くんだよね~。
Aとは趣味が合うから、たまに遊ぶ感じだよ」と返してきた。

ひなのからするとホッとする答えだったが、同時にこんな疑問が湧いた。
「ん?あんなに仲良くしているのに、付き合ってはいないの?
そんなに何回も男女が遊んでいて、好きになったり付き合ったりしないって、ありえるの?」ってね。
ひなのはそのとき、男女の友情ってのは存在しないと信じ込んでいた。だから、このような疑問が浮かんだのだった。
柚果は、続けた。
「ねぇ、急にどうしたの?」
そりゃあ彼女からしたら、久しぶりにDMをよこして、そんなことを突然聞いてくるなんて、どうしたんだろう?と思わずにいられなかったのよね。ごもっともな話よ。

そのあとひなのはこう答えた。
「いや、どうなってるのか気になってたんだよね~
じゃ、付き合って??♡」ってね。

これ聞いたら
「え??何この流れ?何この人?何この軽すぎる告白の仕方!!」って思った人も、結構いるんじゃないかなぁ?
どうですか?みなさん!良かったら、服部に教えて?? 笑

ひなのは疑問に思った。こんなにも軽い告白の言葉は誰が選ぶだろうかってね。
まさに、告白にふさわしくない言葉、NO.1だと思わずにいられなかった。
自分で選んだにしては、ものすごく軽率な言葉達だったな、と後から感じて、ひなのはものすごく恥ずかしくなった。

ほどなくして、柚果からはこんな返事が届いた。
「そ~か、ありがとう。
う~ん、配信でもなかなか会えてないし、お互いのこと、今の時点で全く知らないじゃん?
だから、この状態で付き合ったら、あとあと後悔するんじゃないかなと思う。
これ言われて、突き放されたと思って、もう配信にも行かないし、話さないってなったら、それは本気で好きだったわけじゃないってことだと思うよ。
別に、わたしは関係を切りたいわけじゃあないからね」

これを聞いたひなのの頭に、最初に浮かんだことは
「この人、思ったよりも誠実な人だな」ってことだった。こんな答えをもらって、ひなのはめちゃくちゃ嬉しかった。

だってさ、あ〜んな軽い告白に対して、こんなにもしっかり受け止めて、ちゃんと伝わるように、真剣に言葉を選んでくれたんだもん。
そりぁ、嬉しくなっちゃうよね!

前に書いたように、彼女の第一印象は、すぐにでも配信から抜けたいくらい口が悪くて、ヘラヘラ話してる人って感じだったからさ。
まぁ、拍子抜けしたとこもある。よく言えば、ギャップ、ね。
だから、こ〜んな真面目でしっかりした、誠実な答えをもらって、ひなのは正直カナリびっくりした。
だけどそれと同時にものすごく感激していた。

そしてそのとき、誓った。
「私もちゃんと、誠実で真剣な言葉を返す!」ってさ。
それからひなのは、しばらくの間、試行錯誤した。
どんな言葉で、どんな風に、彼女に伝えたらいいだろうか?ってね。
これはなかなかの時間を要した。2週間くらい、悩んだだろうか。
絶対に、彼女の心に響く言葉達を送りたい。心の底からそう思っていた。
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