妹に婚約者を取られ貧乏魔導士との結婚を押し付けられました〜そこから始まる姉の領地改革〜

5 魔導士様は畑作業する

ゼルゼディス様とパンとソーセージと目玉焼きの質素な朝食をほぼ無言で食べた。
何となく気まずかったので、私は口を開いた。

「あのぅ、今日は何をするのでしょうか?」

「今日は領地の畑作業を手伝おうと思っていますよ。」

ゼルゼディス様は美しい所作でソーセージを食べるとそう言った。

「えーと…
領主のゼルゼディス様が畑作業をするのですか…?」

やはり、どうも今世の令嬢気質が勝ってしまうようだ。

「えぇ、あなたの分まで野菜を採ってきますから!
任せて下さい!」

ゼルゼディス様は張り切っている。

「ありがとうございます。
えーと、私も同行してはダメでしょうか…?」

「え…?
でも、私が行くのは演劇でもオペラでも無く、農作業ですよ…?」

「これから、ゼルゼディス様と人生を共にするならば、私も自分の分くらい稼ぎたいのです。」

私は言った。

「あなたは本当に変わっていますね…
まぁ、そこが好きなのですが。」

ゼルゼディス様はおっしゃる。

え…?
好き…?

あぁ、人間として好きという意味か…

「では、朝食を食べたら畑に向かいましょう。」

「えぇ!」

私も張り切っていた。
何不自由無い令嬢生活もいいけれど、自給自足の貧乏生活も悪く無いではないか。

♦︎

畑に着くと、お爺さんがゼルゼディス様に手を振った。

「ゼルゼディス様、わしゃもう鍬が持てんで…
山にでも捨てられるかのぉ…?」

「お爺さん、私が毎日来て手伝いますから、大丈夫ですよ。
元気を出してください。」

ゼルゼディス様はそう言って腕をまくりあげ、鍬で畑を耕し始めた。

私は土を少し握ってみた。
団子にならずにサラサラと指の間から落ちていく。
かなり土が痩せ細っている。

これでは、いくら耕した所で…

前世での記憶を頼りに考える。
農業番組が好きで、定年退職したら田舎でスローライフを送るのが夢だった。

「ねぇ、お爺さん、この辺に山は無いのかしら?」

「山ぁ?
ふぅむ、10分ほど行った所に木竜様の棲む山があるけんども…」

お爺さんは答えた。

それだわ!

私はゼルゼディス様に言わずにリアカーを押して山に向かった。

山ならば、腐葉土があるはずだ。
それを取ってくれば…!

何故か一生懸命なゼルゼディス様を見て、私も何か力になりたい、と思ったのだ。

山のふもとに着き、腐葉土をリアカーに積んでいると…

『お嬢さん、困るねぇ…
私の山を荒らされては…』

目の前に巨大な木竜が現れた。

まずい…!

「いえ、荒らすなんてそんな!
私は土を取りにきただけで…」

『やかましい!
小娘が…!
我が牙を受けるが良い。』
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