ティラミスよりも甘く
「え? チョコってラズベリーみたいな香りがするの? 美味しいんだけど!」
全くティラミス本体に手を付けず、上に乗ってるチョコから味わっている百子は、うきうきと口にする。口の中でスッと溶けたそれは、僅かな酸味が感じられたものの、爽やかでいてくどく無い。豊かな香りが鼻に抜けるため、暫しうっとりとした。
「そのティラミスの上のチョコは、マダガスカル産のカカオ使用って書いてたな。チョコの産地にこだわる店らしいぞ」
チョコを無視して、いきなりスプーンで掬って食べている陽翔は、華やかな香りのするそれを、一度ミントティーで口直しをしてから、おもむろに口に放り込んだ。
「チョコってこんな味もあるんだな。カカオもコーヒーみたいに、産地とか品種で味や香りが違っても不思議じゃないか」
「まあコーヒーもカカオも、豆だもんね。今度はチョコケーキを食べてみたいかも。絶対にバレンタインになるとお客さん多そうなお店だよね」
(確かに)
陽翔は無言で頷き、マスカルポーネの甘味とコーヒーの苦味を舌で転がす。陽翔の舌にはやや濃厚だと感じられたが、爽快なミントティーがそれを中和している。彼は心の中で自分の妹に合掌した。
「うん! ティラミスも美味しい! ラム酒の香りがする!」
ティラミスに舌鼓を打つ百子の中で、早く食べてしまいたい気持ちと、ゆっくり味わっていたい気持ちがせめぎ合う。寸刻悩んだ彼女だが、陽翔に食べる速度を合わせることに決めた。夕食の時は早食いだった陽翔だが、何故か今はもったりと食べているのである。そんな百子の視線を感じたのか、陽翔は顔を上げて微笑む。
(……やだ、何で?)
目の前のティラミスもかくやと言うほど、甘く感じられた彼の微笑みを見ていると、心臓が早鐘を打ち始めた。高鳴る心音を悟られたく無い百子は、先ほどの決意が落ち葉よりも容易く吹き飛んでしまい、スプーンを動かす速度を早める。
「百子」
黙々とスプーンを動かしていた百子は、陽翔の呼びかけに顔を上げる。ゆっくりと近づく彼の顔を見て、百子は頬を染め、咄嗟に目を瞑った。
「口の端にクリームついてたぞ」
だが陽翔は、指先にクリームをつけたまま、ニヤリと笑って見せただけだった。百子は先程とは別の意味で赤面してしまい、首を激しく横に振る。
全くティラミス本体に手を付けず、上に乗ってるチョコから味わっている百子は、うきうきと口にする。口の中でスッと溶けたそれは、僅かな酸味が感じられたものの、爽やかでいてくどく無い。豊かな香りが鼻に抜けるため、暫しうっとりとした。
「そのティラミスの上のチョコは、マダガスカル産のカカオ使用って書いてたな。チョコの産地にこだわる店らしいぞ」
チョコを無視して、いきなりスプーンで掬って食べている陽翔は、華やかな香りのするそれを、一度ミントティーで口直しをしてから、おもむろに口に放り込んだ。
「チョコってこんな味もあるんだな。カカオもコーヒーみたいに、産地とか品種で味や香りが違っても不思議じゃないか」
「まあコーヒーもカカオも、豆だもんね。今度はチョコケーキを食べてみたいかも。絶対にバレンタインになるとお客さん多そうなお店だよね」
(確かに)
陽翔は無言で頷き、マスカルポーネの甘味とコーヒーの苦味を舌で転がす。陽翔の舌にはやや濃厚だと感じられたが、爽快なミントティーがそれを中和している。彼は心の中で自分の妹に合掌した。
「うん! ティラミスも美味しい! ラム酒の香りがする!」
ティラミスに舌鼓を打つ百子の中で、早く食べてしまいたい気持ちと、ゆっくり味わっていたい気持ちがせめぎ合う。寸刻悩んだ彼女だが、陽翔に食べる速度を合わせることに決めた。夕食の時は早食いだった陽翔だが、何故か今はもったりと食べているのである。そんな百子の視線を感じたのか、陽翔は顔を上げて微笑む。
(……やだ、何で?)
目の前のティラミスもかくやと言うほど、甘く感じられた彼の微笑みを見ていると、心臓が早鐘を打ち始めた。高鳴る心音を悟られたく無い百子は、先ほどの決意が落ち葉よりも容易く吹き飛んでしまい、スプーンを動かす速度を早める。
「百子」
黙々とスプーンを動かしていた百子は、陽翔の呼びかけに顔を上げる。ゆっくりと近づく彼の顔を見て、百子は頬を染め、咄嗟に目を瞑った。
「口の端にクリームついてたぞ」
だが陽翔は、指先にクリームをつけたまま、ニヤリと笑って見せただけだった。百子は先程とは別の意味で赤面してしまい、首を激しく横に振る。