一輪のバラード
定時の17時になると、一番最初に桃華が退勤して行った。
合コンに行くおめかしに時間がかかる為に急いで帰宅するのだろう。
わたしと芽衣子も一時帰宅するが、わたしはおめかしの為に帰宅するわけではない。
うちの会社は私服OKの為、服はそのままで良いかなぁ、と思っており、化粧だけ簡単に直すつもりではいるが、わたしの帰宅の目的は、愛犬のマルに夜ご飯をあげる為だ。
わたしは一時帰宅をすると、玄関前で待ち構えているマルとハグをし、尻尾が取れてしまうのではないかと思うほどに尻尾を振り、愛情表現をしてくるマルを撫で回した。
「マル、またこれから出掛けなきゃいけないんだぁ。ごめんねぇ。」
そう言いながら、わたしはマルのお皿にドッグフードとボイルしたササミを割いて乗せた。
マルは夜ご飯をあっという間に完食すると、ラグの上に座り化粧を直すわたしの膝の上に乗ってきた。
マルは6年前に我が家にやってきた保護犬だ。
家に迎え入れたばかりの時は推定5歳で、左の後ろ足に変形があり、生まれつきなのか、それとも虐待を受けていたせいなのか、、、実際のところは分からないが、3本足でも元気に走り回り、甘えん坊ですぐわたしに懐いてきた。
家の中でわたしが移動すれば、どこにでもついて来る程の甘えん坊で、ずっとわたしに寄り添い、眠る時もわたしの腕枕で寝る程、マルはわたしにとって大切な家族なのだ。
化粧を直し終えると、服についたマルの毛を落とし、再び出掛ける準備をした。
玄関まで行くと、寂しそうな顔でわたしのあとをついて来るマル。
「マルごめんね。早めに帰って来るからね。」
わたしはマルの頭を撫でると、玄関でお座りをしてわたしを見つめるマルに後ろ髪を引かれながら、芽衣子との待ち合わせ場所へと向かった。