初恋成就は虹色雲のキセキ ~白馬の騎士は鳥かごの中の小鳥を溺愛する~
「大きな看板がないのは隠れ家的なお店にしたかったのかな?…それとも、ここは住宅街だから、景観に配慮したのかしら」

「はは、どっちも不正解。俺も〝そのどっちかだろ〞って思って聞いたらさ、単に看板を作って設置するのが面倒だったって言ってたよ。あとお金もかかるし、って」

「ふふふ、そうなんだ」

「ま、そーゆう奴だから、フレンチだけど堅苦しくなくてさ」

「お店の中も柔らかい雰囲気だもんね」


案内された席から店内を見渡してみると、スッキリとした間接照明とシンプルでありながら洒落た内装は清潔感があるし、飾ってある不思議な形のオブジェや変わった形の葉っぱの観葉植物は、見ているだけで自然と気持ちがワクワクしてくるの。

更には、手にしている食器の一つ一つもお洒落なのにシンプルで、次々と運ばれてくる色鮮やかなお料理を引き立ててくれている。


「お料理もとっても美味しいし、素敵なお店だね。それにすごく落ち着くっていうか居心地がいいよね」

「ありがと。友達がやってるからってのもあるけど、本当に旨いと思うからたまに来るんだ。でも女の人と来たことはないからね」

「女の人を連れてきたのは私が初めてなの?」

「うん、家族以外では麻里亜が初めて。きっと友達も驚いてるんじゃないかな、俺が女の人を連れてきたから……ってほら、言ったそばから」


「よっ真宙、来てくれてありがとな。何?彼女?」

そのお友達のシェフさんが、カラフルにかわいらしく盛り付けされたアシェット・デセール(デザート)をテーブルに置くと、ニコニコと私を見た。


「そうだよ。彼女ってゆーか婚約者の栗原麻里亜さん」

「婚約者!? いよいよ真宙も結婚か!おめでとさん!どーも、はじめまして。オーナーシェフの春日井 大地(かすがい だいち)っていーます!真宙とは小中の同級生で実家が近くてねー」

日焼けした人懐っこい笑顔で自己紹介してくれた春日井さんは、パッと見、サーファーみたいなカジュアルに明るい雰囲気で、それもこのお店らしくていいなぁ、と好感が持てた。


「はじめまして、栗原麻里亜と申します。あの…お料理、とっても美味しいです!それに、どれも彩りが鮮やかで、まるで芸術品みたいで素敵です」

「うわーぉ!『芸術品』のお言葉いただきましたー!メルシーボクゥ!嬉しぃ僕ぅ!」

「麻里亜、褒めすぎ」

「うはは、真宙が妬いてら。じゃー、おじゃまムシは帰りまーす。ゆっくりしてってな」
と、春日井さんは笑顔でキッチンへ戻っていった。

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