初恋成就は虹色雲のキセキ ~白馬の騎士は鳥かごの中の小鳥を溺愛する~
「真宙、ワリぃ!委員会あったの忘れてた。今日のは何時に帰れるかわかんねぇから、レコード屋はまた今度で!」
「了解、じゃあ先に帰るな。委員会、頑張れよ」
と、急に予定がなくなって、一人でプラプラ歩いて下校してる時、ふと入学式の日の事を思い出したんだ。
あの時…栗原さんがこうやって桜の花を見上げてたんだよなぁ…って俺も見上げてみたんだ。
桜の花じゃなくて葉っぱしかない桜の枝だけど。
そしたら後ろから声が聞こえたんだ。
「わぁ…キレイ…!雲が虹色だ…」
って。
雲が虹色?って、つられる様に俺も空を見たら、彩雲があったんだ。
珍しいな、見たの何年振りだろ…
って、この可愛い声はまさか!と振り返ったら、マジで栗原さんだった。
こっこれは、栗原さんと話すチャンス到来!
「あれは彩雲てゆーの。〝彩りの雲〞って書いて彩雲。……彩雲を見るといいことがあるって言うよ」
話せるのが嬉しくて、顔が緩んだまま近付きながらそう言うと、栗原さんが俺を見てちょっと驚いてた。
唐突に話しかけちゃったし、迷惑だったかな…なんて少し不安になっていたら、栗原さんが言葉を返してくれた!
「徳永くんは見たことあるの?」
「あるよ」
「いいことあった?」
「…そうだね、あったよ」
今、栗原さんと話すことができた。
これがスペシャルな出来事!
「そっかぁ…でも本当にキレイだね、見てて飽きないね」
「うん、そうだね」
変に飾り気を出さない素直な栗原さんはやっぱ可愛い。
あれ?そーいや…
「僕の事、知ってるの?」
さっき〝徳永くん〞て言ったよね?
え?マジで知ってるの?
「うん。徳永くん、有名人だし」
「そうなの?」
有名人…?
「うん、頭脳明晰、スポーツ万能、眉目秀麗な徳永薬品の息子さん、って有名だよ?」
「へー…栗原さんもそう思ってる?」
「え?…私を知ってるの?」
「うん、知ってたよ」
好きだから。
なんてまだ言えないけど…
「そうなんだ…珍しいね」
珍しいって、何その可愛い返し。
つい笑っちゃったじゃん。
「ハハッ何で知ってると珍しいの。それで、栗原さんもそう思ってるの?僕のこと」
教えて?
「そう、って?」
「頭脳明晰、スポーツ万能、眉目秀麗、だっけ?」
自分で言うのは恥ずかしいけど。
「あ…うん、そう思うよ」
マジか!
「そっか、ありがとう」
「いえいえ…」
あー…これはお世辞っぽいな…
でも、それでもすげぇ嬉しい!
「栗原さんは駅まで徒歩?」
「うん。徳永くんは?」
よっしゃ!
「僕も。だから駅まで一緒に行ってもいい?」
ダメならついていくだけだけどね。
ってそれストーカーじゃん。
俺、ヤバいね。ははっ
「あの…いいんだけど…歩くの遅いから無理しなくていいよ?」
…自分の事より相手の事を考えてくれるんだ…
あーヤバい、もっと惚れちゃったじゃん。
てゆーか、歩く速さなんて関係ないし、ゆっくりなら尚いいよな、より長くいられるもんね!
「栗原さんが嫌じゃなきゃ一緒に帰ろ」
俺、ごり押しすぎか?
でも、この一生懸命になる気持ちって初めてで嬉しくて楽しいんだ。
「うん…ありがとう。…あの、1年の時は、傘を貸してくれてありがとうございました。ずっとお礼も言えずにごめんなさい」
「…え」
スッ、と頭を下げるその仕草がすごくきれいで、ちょっと見惚れてしまった。
ってかそれって…
「覚えてないかも知れないけど、徳永くん、1年の時に私に傘を貸してくれたの」
「…いや覚えてるけど…栗原さん、覚えててくれたの?」
マジで?
「うん。まだ借りっぱなしでお返ししてなくてごめんなさい」
「いや…あげるって言ったと思うから…え、そうなんだ、覚えててくれたんだ…」
ヤッバ、すげぇ嬉しい…
顔がにやけるのを我慢できないくらい嬉しくて、そのテンションのまま、駅まで2人で話しながら帰った。
──その後は校内で会った時に声をかけてはみるんだけど、やっぱ遠慮がちに挨拶程度しか返ってこなくて。
一度話しただけじゃ、普段から仲良くなるのはなかなか難しいな…