初恋成就は虹色雲のキセキ ~白馬の騎士は鳥かごの中の小鳥を溺愛する~
視線をマンハッタンの綺麗な赤に移す。
「…私、好きではない人と結婚するんです」
「……なぜです?」
マスターさんが怪訝そうな声で問う。
「父の命令です。相手の方は、昔、父の会社の経営が危なかった時に助けて頂いた会社の社長の息子さんで、それは私が高校生の時から決まっていた話なんです。私より2つ歳上の相手の方が30歳になったら結婚すると言われていて」
「高校の頃から…?」
「はい。相手方も父の会社と手を組みたいらしく、いわゆる政略結婚の様なものかと」
「あぁ…」
「それで、3か月後に婚約が決まって、その前に二人で旅行に行ってこいと言われまして」
「相手の方は?」
「…恋人と過ごしていると思います。京都には居ると思いますが、どこで何しているかは全く知りません。私の所在も知られてないと思いますが」
「恋人と?…相手の方は麻里亜さんの他にお付き合いしている方がいるんですか?」
「というか、私とは付き合ってもいません。あちらも親からの命令ですから、私との結婚を望んではいないでしょうし。…そんな訳で、名目上は二人での旅行なんですけど、実際は気楽な女の一人旅です」
「何それ……麻里亜さんはそれでいいんですか?」
「いいも悪いも……私には決定権……そもそも自由がありません。いくら私がその方と結婚したくないと言っても、それは受け入れてもらえないのですから。…きっとこのまま、愛されない本妻で人生を終えるんでしょうね。……あ、暗い話でごめんなさい、ふふ」
…何だか申し訳なくて自嘲するも、「いえ…」と答えるマスターさんの顔は強張ったまま。
でも、ただの一見さんのお客のつまらない話に、ここまで親身に聞いてくれるのが嬉しかった。
…そうだよね、この話は誰にもできなかったんだもん。
特に私の個人的な意見は吐き出せる場所がどこにもなかったから。
…あぁ…そっか。
初めて自分の気持ちを他人に吐き出したんだ、私…
友達にも、お母さんにも、仲良くしてくれてる秘書室の先輩や同僚達にも…誰にも言えなかった、本当の自分の気持ちを吐き出したんだ。
…いいよね、横浜からこんなに離れた京都という地で、私の事を知らないマスターさんに少しくらい話してみても、バチはあたらないよね。