初恋成就は虹色雲のキセキ ~白馬の騎士は鳥かごの中の小鳥を溺愛する~
「まず、お父さんが継いだ途端、業績が落ちた理由ね。最終結論から言うと、ヒラクボファーマに騙されたのよ」

「えっ!?」

「その頃、ある製薬会社と新薬の共同開発をしていたのだけど、その最中にそれまでのデータをヒラクボサイドに盗まれてたのよ」

「なんてこと…」

「当時は盗まれている事を知らず開発を続けていたのだけど、ヒラクボが先に新薬を開発していると公表してしまってね…」

「それでその薬は…?」

「結局ヒラクボは開発を断念したわ。商品化が決定したわけでもないのに発表したのは勇み足だったわね。盗まれたデータは臨床試験前の段階で、そこから先はヒラクボでできると思ったんでしょうけど」

「そうなんだ…」

「新薬の開発は簡単ではないし、長期に渡るでしょう?うちも共同開発だからこそ、ここまでできていたんだもの、ヒラクボだけでは無理だったんでしょうね」

「え?でも待って、それでどうしてうちの業績が落ちるわけ?」

「そこなのよ。…それは噂のせいなの。逆にうちがデータを盗んだというデマが流れたの。それで信用が落ちてね…」

「何それ…」

「それで、そのデマを消してくれたのがヒラクボの善次郎さんなの。うちが濡れ衣を晴らすために顧問弁護士と準備を進めようとしていると、善次郎さんがうちを信用して庇って下さってね」

「…それで借りがあるんだ」

「えぇ。…でもね、実はそのデマを流したのが倫靖さんだということがわかったのよ。そして、データが盗まれた件も、裏で操っていたのが彼だったこともね」

「えぇっ!? 何それ!……ていうかそれ、いつわかったの?」

「最近よ。本当に最近」

「何でわかったの?」

「実は…とある所から来た情報なの。今うちの会社でそれを知っているのは私と正幸だけ」

「とある所って?」

「ごめんね、それはまだ言えないの。あちら様の意向でね」

「そうなんだ。なら聞かないけど…信頼できる所なのよね?」

「それはもちろん。麻里亜も知る企業だから心配ないわ」

「そう…それならわかった、信じる」

「それでね、お母さん、正幸と一緒に会社を作ろうと思ってるの」

「それは…栗原製薬とは別の会社ってことだよね…でもどうして?」

「麻里亜も知っている通り、社長であるお父さんと、副社長である正幸は今、社内で対立し始めているでしょう?」

「そうだね、社長側に付く人が多く見えるけど…」

「えぇ、役員の大半は社長に付くわね。でも社員は正幸側が多いと思うのよ、特に開発研究関係は」

「正幸おじさんは開発畑だもんね」


そして、お母さんがまたダージリンティーを一口啜り、「ここだけの話だけど」と念を押した。

< 87 / 138 >

この作品をシェア

pagetop