初恋成就は虹色雲のキセキ ~白馬の騎士は鳥かごの中の小鳥を溺愛する~

「うん、わかってる。…それで?」

「…実はね、ヒラクボに盗まれたデータの新薬の共同開発はあれからもずっと続けていたの」

「えっ!それ聞いたことない…」

「えぇ、共同開発と言ってもカタチ的には協力に近いのよ、あちらが主体となって進めて下さっているから。…それで、またデータを盗まれる事を危惧して開発を再開したことは公にせず、社員はもちろん社長や役員にも伝えていなかったの。だから栗原の上役で知っているのは、その開発に関わっていた正幸と私だけなのよ」

「へぇ…」

「今は便利なものでウェブ会議もできるから助かるわ。開発自体はうちの社屋ではせず、必要な時に限られたうちの社員だけがあちらにお邪魔してるの。だから社長をはじめ他の役員も誰も未だに気付いていないのよ。それに承認の申請もあちらから出してもらってるからね」

「そうだったんだ…」

「それで最近その新薬の承認がおりてね、やっと商品化できることになったのよ」

「えっ、すごい!ほんとにすごい事だよね!」

「えぇ、本当に素晴らしい事よね。…そのためにお母さんは離婚して、新しい会社を正幸と立ち上げようと思ってるの。正幸もそのつもりで水面下で準備を始めてるわ」

「そうだったんだ……うん、賛成する。あ、でもそれと私の婚約解消は何か関係あるの?」

「もちろんよ。お母さんね…総会で全て話そうと思うの、倫靖さんのしてきたことを」

「えっ!そんなことをしたらお母さんが危ないよ!あの平久保社長だもの、何をしてくるか…」

「確かにね。でも麻里亜を守れるのならそれくらい何てことないわ。お母さんがこんな結婚は潰すから、麻里亜は好きな人と結婚しなさい」


その、母親としての強い意思と言葉に涙腺が緩くなり、自然と涙がこぼれた。

「お母さん…ありがとう……もう…その気持ちだけで充分だよ……でも何で別会社なの?…お父さんを追い出すとかはできないの?」

「そうね…それも正幸と考えたんだけど…役員がほとんど社長に付くだろうから…色々と難しいのよね」

「そうなんだ…」

「麻里亜は心配しなくていいわ、お母さんと正幸が姉弟(きょうだい)で頑張るから。…会社は変わっても、栗原製薬の創業者であるおじいちゃんの意志を受け継ぐのは私達よ。それに、私達に付いてくる社員も多いと思うわ。みんな、最近の社長には特に振り回されて疲れていてね……本当に申し訳なく思うわ…」

確かに、私も最近、お父さんの経営の進め方がおかしくなっていると感じていた。
そして今度は買収が現実になりつつある。

これじゃあお父さんはまるで……

…あ!

「ねぇ、お父さん…平久保社長に操られてるんじゃ…」

「え?」

「お金と女の人を与えて弱味を握って、反抗できないようにしてるみたい……もしかしておかしな言動も平久保社長の意見を通すため…とか」

「…そう…とも取れなくもないけど……でも愛人と出掛けているのは事実だから…離婚はするつもりよ」

「そっか……そうだよね…浮気は許せないよね。…はぁ……平久保社長に買収される位なら、いっそのことヒラクボファーマが太刀打ちできない商社とか大企業に買い取ってほしいよね。製薬とは関係のない業種でもいいから」

「ふふ、そうね、その方がきっと社員のみんなもやる気が出るわね」

「でもお母さん、当日にそれを言うのは本当に危険だと思う」

「えぇ、それは承知の上よ。…でも負けたくないの。麻里亜も、父の残した会社も、あいつのいいようにはさせないわ」

「私もお母さんとおじさんの味方だよ!でも本当に無茶はしないで…」

「ありがとう。この情報を下さった方ともまた相談してみるわ」

「うん……」


私は……その話に希望を持ちたいと思いつつも、お母さん達が心配でならなかった。


< 88 / 138 >

この作品をシェア

pagetop