涙宝の花嫁

序章



この世界の人間全てが、魔力の根源であるマナを宿している。

一定のマナ量を超えた者を魔力持ちと定め、その力を扱う者を魔法士と呼ぶ。

その存在は極めて稀有であり、王侯貴族の生まれでなければ専門機関である魔塔エレウテリアに所属することが基本となる。

魔法士の中でも戦闘魔法士は国に重宝され、たった一人の魔法士の存在だけで所有国は栄華を誇るとされるほど。

魔塔の創設者である初代長官は"魔塔にとって全ての国々は公平であり、政への干渉は一切禁ずることとする。また、魔力や魔法に関する情報の提供・暴走を抑制するための安全面を考慮した指導は、全ての国に権利があるものとする"と宣言し、現在も続く不可侵の魔塔を築き上げた。

———現在、大陸全土の数ある国々の中で戦闘魔法士を有する国家は五ヵ国存在する。

本来、魔法士を有しているだけで他国への牽制・優位的立場を得られるが、それを覆す規格外の魔法士がいた。

軍事国家、ヴェルクザイン帝国皇帝。
シュヴァリエ・ハーベスト・ウェイン。

膨大な魔力量をその身に宿し、剣を媒介に二つの上位魔法を操る彼はまさしく最強の戦闘魔法士であり、最恐の皇帝であった。

だが、大陸の絶対的支配者とも呼べる彼をそこまで押し上げた理由は他にもある。

ヴェルクザインの皇帝は、どの代も戦争好きの狂った剣士、もしくは魔法士であり、自らが戦場に立ち敵を屠る。先代皇帝はその中でも歴代最強の戦場の悪魔と恐れられた異端者だったという。

……が、それは呆気なく実の息子の手によって崩される。当時皇太子であったシュヴァリエ・ハーベスト・ウェインは、その圧倒的な自身の力と頭脳でさらりと皇位を簒奪してみせたのだ。

周辺国の警戒心と恐怖心を煽り続けた戦場の悪魔を容易く屠ってしまった新たな皇帝は、これまで以上に周囲から畏怖の対象とされ絶対的支配者として君臨した。

そんな、ヴェルクザインの皇帝から、魔塔エレウテリアに一通の書状が届く。

"我が国の皇弟、リヒト・ハウエル・ウェインが魔力持ちであることが判明した為、鑑定及び魔法に関する全ての指導を要請する。"

皇帝はその内容を隠すことなく、意図的に大陸へ開示した。

絶対的な強国に新たな魔力持ちの誕生。
そして、皇帝自身が魔力を巧みに操る魔法士でありながら、中立を貫く魔塔への依頼。
それは正当な依頼ではあるが、各国は警戒を強めないわけにはいかず、大陸中に緊張が走った。


「……さあ、運命が巡る時が来た」


運命の欠片たちは出会う。

ぶつかり、壊し合い、繋がり、一つ一つの選択が
運命の色を変え、形作って行くのだ。




これは、後世に語り継がれる
美しき伝説の、始まりの物語。





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