涙宝の花嫁

第一章




「え……これ、本当に?」

魔塔エレウテリアの魔法士、エマティエラ・ドゥ・イリ・フリューゲルは大きくぱっちりとした猫目をパシパシと瞬かせた。

円卓を囲むエマティエラを含めた四人の魔法士は、鑑定書の内容を覗き込み、鑑定を行った二人の魔法士に驚きの目を向けた。

先日、"あの"悪名高い帝国の皇帝から直々に届いた書状。魔塔の上層部は丸一日会議に時間を費やし、昨日幹部の二人が鑑定を行いに帝国の皇城へと赴いた。

だが、持ち帰って来た鑑定結果は、鑑定を行った魔法士二人でさえ、自分達の間違いを疑ってしまうほどのイレギュラーだったのだ。

幹部(五星)の年長組が鑑定したんだから間違いはないと思うけどさあ、これほんと?」
「ああ、マジマジ。さすがの俺もびっくりしすぎてクロエの顔五度見はしたな」
「あの時のミカエルの表情は傑作だったわね。……ただ、この結果でいくと……ね」

オレンジ色の髪を顎のラインでぱっつりと切り揃えた美女は、自分よりもずっと歳下の少女に心配そうな視線を向ける。

「皇帝の望む、弟殿下の指導。出来るのは多分、エマだけだと思うわ」
「本当は五星から出すのが妥当なんだけどな。俺達には専門外すぎる」
「エマっち行かせるの、だいぶ賭けじゃない?バレたらほぼ人質確定でしょ、皇帝からしたら」
「それな、俺もそこが心配。相手が相手だ」

四人の幹部から向けられる"心配でしかない"という視線に、エマティエラはふふ、と微笑んでみせる。

「お嬢」

エマティエラを唯一お嬢と呼ぶもう一人の幹部は、読めない表情で真っ直ぐと少女を見つめた。

「セツナ、多分結構長い期間になると思う。私がいない間負担かけちゃうけど……いい?」

花紫色の強い輝きを持った瞳が、真っ直ぐと見つめ返す。数秒の沈黙の後、セツナと呼ばれた男は深く息を吐いて頷いた。

「ありがとう。セツナは魔塔と私の連絡役も兼ねて、出入り出来るようにお願いしてみるね」
「……了解」

こうして、十八歳の少女が帝国の皇弟殿下の指導役として決定したのだった。


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