涙宝の花嫁
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ヴェルクザイン帝国、皇城内。皇帝専用謁見室。
「お初にお目にかかります。
魔塔エレウテリアから参りました———」
「無駄話はいらない。さっさと本題に入れ」
(……これが噂の残虐無慈悲な皇帝か)
自分の弟の指導役として登城した人間の自己紹介を無駄話とは。そう思いながらも、エマティエラは魔塔所属の魔法士として制服に身を包み、黙って拝礼する。
その様子を無言の圧力を放ちながら一連の動きを眺めた皇帝、シュヴァリエ・ハーベスト・ウェインは「随分と若い指導役だな」と、嫌味でもなんでもなく、ただ事実を述べるように口にした。
「皇弟殿下の指導役として不合格でしょうか」
「……いや?能力や技量に年齢は関係ないと身を持って知っている」
それは、当時十八歳という若さで歴代最強であった皇帝から皇位を簒奪した自身のことを言っているのだろうか。エマティエラは真っ直ぐと皇帝を見つめた。
相手が誰であっても、どんな国であっても、対等でいなければならない。それが古くから築かれてきた魔塔の在り方だ。
怯えを見せず、逸らすことなく自身の視線と重ねるエマティエラに、皇帝は口角を僅かに持ち上げて座るように視線で促す。その意図を組んだエマティエラは「失礼します」と気品を感じさせる動作でレザーのソファに座った。
「……」
目の前で長い脚を組み、肘掛けに頬杖を付く皇帝は、まるで荒れた大海原のようであり、静謐で美しい氷海のようであり、底知れない恐ろしさのある深海のようだった。
「陛下、我々魔塔は全ての国において平等であり対等です。……殿下の指導というのは、どこまでとお考えでしょうか」
この問いに対する皇帝の返答次第で、そもそも指導役を引き受けるかどうかが決まる。
"力の制御や基礎技術の習得"ではなく、"活かすこと"を望むのであれば、応えることは出来ない。
「……お前は、先日鑑定に来た魔法士共から結果を聞いていないのか?」
「結果は存じています」
「ならば、その問いに意味はあるのか」
予想外の返答に、エマティエラは思考を巡らす。
「質問を変えます。……陛下は、殿下がどちらになることをお望みですか?」
「……それは、指導の仕方によっては望む方に出来ると?」
「現段階では断言出来かねます。都度殿下の状態を把握していかなければなりませんから。……まずは改めて、私に皇弟殿下の鑑定をさせてください」
「良いだろう。……あれを連れて来い」
皇帝の座るソファの斜め後ろに控えていた側近と思われる男は「承知致しました」と丁寧に拝礼をして部屋を出て行く。
「………で?」
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ヴェルクザイン帝国、皇城内。皇帝専用謁見室。
「お初にお目にかかります。
魔塔エレウテリアから参りました———」
「無駄話はいらない。さっさと本題に入れ」
(……これが噂の残虐無慈悲な皇帝か)
自分の弟の指導役として登城した人間の自己紹介を無駄話とは。そう思いながらも、エマティエラは魔塔所属の魔法士として制服に身を包み、黙って拝礼する。
その様子を無言の圧力を放ちながら一連の動きを眺めた皇帝、シュヴァリエ・ハーベスト・ウェインは「随分と若い指導役だな」と、嫌味でもなんでもなく、ただ事実を述べるように口にした。
「皇弟殿下の指導役として不合格でしょうか」
「……いや?能力や技量に年齢は関係ないと身を持って知っている」
それは、当時十八歳という若さで歴代最強であった皇帝から皇位を簒奪した自身のことを言っているのだろうか。エマティエラは真っ直ぐと皇帝を見つめた。
相手が誰であっても、どんな国であっても、対等でいなければならない。それが古くから築かれてきた魔塔の在り方だ。
怯えを見せず、逸らすことなく自身の視線と重ねるエマティエラに、皇帝は口角を僅かに持ち上げて座るように視線で促す。その意図を組んだエマティエラは「失礼します」と気品を感じさせる動作でレザーのソファに座った。
「……」
目の前で長い脚を組み、肘掛けに頬杖を付く皇帝は、まるで荒れた大海原のようであり、静謐で美しい氷海のようであり、底知れない恐ろしさのある深海のようだった。
「陛下、我々魔塔は全ての国において平等であり対等です。……殿下の指導というのは、どこまでとお考えでしょうか」
この問いに対する皇帝の返答次第で、そもそも指導役を引き受けるかどうかが決まる。
"力の制御や基礎技術の習得"ではなく、"活かすこと"を望むのであれば、応えることは出来ない。
「……お前は、先日鑑定に来た魔法士共から結果を聞いていないのか?」
「結果は存じています」
「ならば、その問いに意味はあるのか」
予想外の返答に、エマティエラは思考を巡らす。
「質問を変えます。……陛下は、殿下がどちらになることをお望みですか?」
「……それは、指導の仕方によっては望む方に出来ると?」
「現段階では断言出来かねます。都度殿下の状態を把握していかなければなりませんから。……まずは改めて、私に皇弟殿下の鑑定をさせてください」
「良いだろう。……あれを連れて来い」
皇帝の座るソファの斜め後ろに控えていた側近と思われる男は「承知致しました」と丁寧に拝礼をして部屋を出て行く。
「………で?」