想っていたのは私だけでした
プロローグ
え……ここは…どこ?迷ったのかしら
逃げなきゃ!早く早く!村まで
曲がるところを間違えた?
後ろを振り返る余裕もない
必死で走った
雑草の生い茂る道なので、ザクザクと走る度に音がしていたのに、いつの間にかコツコツという音に変わっていた。
はぁはぁはぁ
慌てて後ろを見るが誰も追いかけてきてない
逃げ切れた…
息も絶え絶えに走るのをやめて歩き出す
足元を見ると草道ではなく固い道を歩いていた
固い道……絵画で見た街道とも違う黒っぽい道だ
もしかして山を抜けて隣国まで迷いこんでしまったのかもしれない
いつの間にか霧が出ていて周囲の景色が見えなくなってきた
どうしよう…
闇雲に動き回っても視界が開けそうにない。
立ち止まるとますます霧が濃くなり自分の身体さえ見えなくなった
どうしよう、どうしよう、どうしよう
怖い
ぎゅっと目を閉じて両腕で自分の身体を抱きしめるようにうずくまった
すると突然背後から突風が吹いてきて、前につんのめるように倒れこんだ
「痛っ!」
受け身が上手く取れずに、顔の左側を地面に擦りつけていた
「いったー」
恐る恐る顔に手を当てると少しだけ血がついた
「もぅ最悪……」
最悪な気分で泣き言をつぶやきながら立ち上がると、目の前に真っ白な扉があった
「え?扉…?さっきまで何もなかったのに」
ノックしようと扉に手を近づけるとゆっくりと扉が開いていった
どうぞ
と、誘われるようにスミレは中へと足を踏み入れていた
「あ、あのぅ、どなたかいらっしゃいますか? 道に迷ってしまって…お、お邪魔させていただきます…」
バタン
後ろで扉が閉まる音がして閉じ込められるのではないかと不安がよぎり振り返った
施錠されてなかったのでほっと胸を撫で下ろし、改めて室内を━━
「ぎゃぁーーーーーー!」
「どうされました?」
突然目の前に女性が現れて驚いて絶叫する
「大変失礼致しました。驚かせてしまいましたねお客様」
「お、お、お客様?」
「はい、ようこそいらっしゃいました。ここはcafeソリュブル。と言ってもインスタントしか置いていないのですが。
コーヒー、ココア、カフェモカ、紅茶どれになさいますか?今日のおすすめはカフェモカです。
と言ってもコーヒーとココアを私流に混ぜてるものですが勿論インスタントです。意外と美味しいのですよ。いかがでしょうか?」
にこにこと早口で説明するこのお店の店員らしき中年の女性。
黙っていると穏やかな雰囲気なのに、話し出すと明るくハキハキとした口調で、一言で表すと、元気な人。
さっきまで泣きそうになっていたことも吹き飛ぶくらいに、女性のペースに呑まれそうになっていた
何か飲み物を飲んでひとまず気持ちを落ち着けよう
手持ちは寂しいけど、道も尋ねたいし、一番安い飲み物をいただこうかな
ポケットに入れたお金を確認しながら考えをまとめた
「あの、おいくらですか?お恥ずかしい話ですが、あまり、手持ちがなくて…」
「お代は結構です」
「え?そんなっ」
「あぁ、タダということではありませんよ。お金の代わりにあなたのお話を聞かせてください。飲み物を飲み終わるまで。
飲み物は━━おすすめのカフェモカでよろしいでしょうか?」
「は、はいっ。その、カフェモカ?というものを飲んだことがないもので…」
「あなたは……なるほど。私と違う世界の方のようですね。甘すぎず苦すぎず温かい飲み物ですよ。どこでも好きな席におかけになって少々お待ちください」
店内はどこも真っ白だった。
壁際の椅子に腰掛けることにした
「お待たせいたしました。本日おすすめのカフェモカです。私も向かいの席に腰かけてもよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
カップには不思議な色の飲み物が入っていた。
紅茶しか飲んだことがないけれど、都会にはこんな飲み物があるのね
ふぅふぅと息を吹きかけ一口飲むと、
喉から胃へと温かさが広がる
「美味しい」
初めて飲んだカフェモカは、ほんのり甘くて、温かい
「ガヴェイン……」
無意識にいなくなった彼の名前を呟いていた
「ゆっくりお飲みなさい。その方はあなたの想い人なのかしら?」
「想い人……?とても、とても大切な人です。私はスミレと言います」
気がつけば涙が頬をつたっていた
もうひとくち飲み物を飲むと、私はここに来るまでの経緯を話し始めた
逃げなきゃ!早く早く!村まで
曲がるところを間違えた?
後ろを振り返る余裕もない
必死で走った
雑草の生い茂る道なので、ザクザクと走る度に音がしていたのに、いつの間にかコツコツという音に変わっていた。
はぁはぁはぁ
慌てて後ろを見るが誰も追いかけてきてない
逃げ切れた…
息も絶え絶えに走るのをやめて歩き出す
足元を見ると草道ではなく固い道を歩いていた
固い道……絵画で見た街道とも違う黒っぽい道だ
もしかして山を抜けて隣国まで迷いこんでしまったのかもしれない
いつの間にか霧が出ていて周囲の景色が見えなくなってきた
どうしよう…
闇雲に動き回っても視界が開けそうにない。
立ち止まるとますます霧が濃くなり自分の身体さえ見えなくなった
どうしよう、どうしよう、どうしよう
怖い
ぎゅっと目を閉じて両腕で自分の身体を抱きしめるようにうずくまった
すると突然背後から突風が吹いてきて、前につんのめるように倒れこんだ
「痛っ!」
受け身が上手く取れずに、顔の左側を地面に擦りつけていた
「いったー」
恐る恐る顔に手を当てると少しだけ血がついた
「もぅ最悪……」
最悪な気分で泣き言をつぶやきながら立ち上がると、目の前に真っ白な扉があった
「え?扉…?さっきまで何もなかったのに」
ノックしようと扉に手を近づけるとゆっくりと扉が開いていった
どうぞ
と、誘われるようにスミレは中へと足を踏み入れていた
「あ、あのぅ、どなたかいらっしゃいますか? 道に迷ってしまって…お、お邪魔させていただきます…」
バタン
後ろで扉が閉まる音がして閉じ込められるのではないかと不安がよぎり振り返った
施錠されてなかったのでほっと胸を撫で下ろし、改めて室内を━━
「ぎゃぁーーーーーー!」
「どうされました?」
突然目の前に女性が現れて驚いて絶叫する
「大変失礼致しました。驚かせてしまいましたねお客様」
「お、お、お客様?」
「はい、ようこそいらっしゃいました。ここはcafeソリュブル。と言ってもインスタントしか置いていないのですが。
コーヒー、ココア、カフェモカ、紅茶どれになさいますか?今日のおすすめはカフェモカです。
と言ってもコーヒーとココアを私流に混ぜてるものですが勿論インスタントです。意外と美味しいのですよ。いかがでしょうか?」
にこにこと早口で説明するこのお店の店員らしき中年の女性。
黙っていると穏やかな雰囲気なのに、話し出すと明るくハキハキとした口調で、一言で表すと、元気な人。
さっきまで泣きそうになっていたことも吹き飛ぶくらいに、女性のペースに呑まれそうになっていた
何か飲み物を飲んでひとまず気持ちを落ち着けよう
手持ちは寂しいけど、道も尋ねたいし、一番安い飲み物をいただこうかな
ポケットに入れたお金を確認しながら考えをまとめた
「あの、おいくらですか?お恥ずかしい話ですが、あまり、手持ちがなくて…」
「お代は結構です」
「え?そんなっ」
「あぁ、タダということではありませんよ。お金の代わりにあなたのお話を聞かせてください。飲み物を飲み終わるまで。
飲み物は━━おすすめのカフェモカでよろしいでしょうか?」
「は、はいっ。その、カフェモカ?というものを飲んだことがないもので…」
「あなたは……なるほど。私と違う世界の方のようですね。甘すぎず苦すぎず温かい飲み物ですよ。どこでも好きな席におかけになって少々お待ちください」
店内はどこも真っ白だった。
壁際の椅子に腰掛けることにした
「お待たせいたしました。本日おすすめのカフェモカです。私も向かいの席に腰かけてもよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
カップには不思議な色の飲み物が入っていた。
紅茶しか飲んだことがないけれど、都会にはこんな飲み物があるのね
ふぅふぅと息を吹きかけ一口飲むと、
喉から胃へと温かさが広がる
「美味しい」
初めて飲んだカフェモカは、ほんのり甘くて、温かい
「ガヴェイン……」
無意識にいなくなった彼の名前を呟いていた
「ゆっくりお飲みなさい。その方はあなたの想い人なのかしら?」
「想い人……?とても、とても大切な人です。私はスミレと言います」
気がつけば涙が頬をつたっていた
もうひとくち飲み物を飲むと、私はここに来るまでの経緯を話し始めた
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