想っていたのは私だけでした

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「ところでさっきの「紫」ってアルのあだ名かい?名前名乗らなかったの?適当に偽名でも言えば良かったのに」

ずりずりと下着男を引きずりながらアルは答える

「治療に名前は必要ないと言われまして」

「ふ~ん。珍しいね、アルを見て名前すら尋ねないなんて。アルに見つめられただけで失神するファンも多いのに。近づこうと突進してくる令嬢もいるのに。」



「なんですか、失神って。私は見つめてなどいないですが。肩書きに寄ってくるのでしょ、そういう女性は苦手ですし」


苛立つ気持ちを下着男にぶつけるように乱暴に引きずりながら歩く

「肩書きだけではないだろう。私が女だったらお前に惚れてる」

殿下はぐいっとアルに距離を詰めた
咄嗟に下着男を壁に使う

「ははは、アルは面白いな。ところで、その下着、アルが保管しておきたまえ。」

殿下は頭の下着を指さすとニコニコ顔で促す

「は、はぁ!さ、さすがにそれはっ」

直視できずにオロオロするアル

「まさか、アル、お前は騎士達に彼女の下着をみせびらかすつもりか?仮にも私の命の恩人だぞ」


「そっ、そそそそうですが」

「ほらほら、早く~。このまま連れて行くのは時間がかかる。転移させるから下着をほら」

「そ、そういうことでしたら…」

こ、これは恩人の下着とはいえ衣服だ
きちんと持ち主へ返すのが礼儀というもの

目を瞑りええいっと頭から外してすぐにポケットへ突っ込んだ


「ははは、アル、女性の持ち物だからもっと丁寧に扱わないと」

「この件に関しては、絶対に誰にも言わないで下さい殿下」

「さぁ、どうするかなぁ」


「殿下~!」

「さてと、戻るか」

下着男、下着を外したのでただの男となった者を役所へと飛ばした殿下は颯爽と歩き出す

ポケットが妙に熱を帯びて感じるアルは落ち着がない気持ちでその後を追った

「殿下?」

急に霧が辺りに立ち込めて視界が遮られた

「なんだ…」

「殿下ー!どこですか!」


声を張り上げるも返事がない
なんということだ

霧を払拭しようと風魔法を発動する

「?」


どういうことだ


何度も繰り返し発動するが霧は立ち込めたまま

アルは己の魔力が多大であると自負している

まさか私よりも強い魔力持ちが。

殿下を狙った誘拐か

ならば、

己の魔力を全力でぶつけるために集中した時だった

「問題ないアル」

「殿下、どこから?ご無事ですか」

目と鼻の距離に殿下が姿を現した


「いったい何事です?何者かの攻撃ですか?」


「いや、大丈夫だ…」


「殿下?」


「あ…あぁなんでもない…懐かしくてな…」


いつになく低い声で答える殿下は、光の球を多数飛ばし始めた
球に見えたのはよく見ると鳥の姿をしている

「ちょっと調べ物ができた。」


我々魔力の強い者は動物などの姿の球を飛ばして監視や調査を行うことがある
多大な魔力を使う高度な魔法なので、あまり使える者はいない

先程の霧と関係があるのか

「アル、何も聞くな、戻るぞ」

「お待ちをっ」

また見失うのではないかと不安になりアルは殿下の側にピッタリとくっついて歩き始めた




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