想っていたのは私だけでした

12

「いい香りだね。いただこう」

アルとデーは横並びに腰掛けた
向かいに座るスミレも一息つく

「これは、少し苦味が…」

「薬草を入れてるのです。味は…苦いでしょうか?でも驚くほどに疲れがとれるのですよ。苦かったら普通のお茶を淹れますね」

「こらこらアメ、わがままはいけないよ」

「いや、飲めないとは言ってない」

お世辞が苦手なのでストレートな物言いが時に女性を不快にさせることもある
そんな相手の気持ちなど微塵も気にしたことのなかったアメだ

スミレはなんでもないようにお茶を淹れようと立ちあがった

嫌われたくない

ただ素直にそう思った
彼女の淹れてくれたお茶ならば苦くても大丈夫だ
なのに上手く言えない

「こういう時は素直にありがとうというもんだよアメ」

「はっはぁ、分かっております。私はただ…あり…がとう」

「特殊なお茶で逆に申し訳なかったです。先にお伝えすればよかったですね。」

にこりと笑みを浮かべるスミレにドキりと心臓が鳴った

アメは苦いお茶を我慢すると心臓に負担がかかるのだなと納得した

だが無意識に自然と笑みが溢れていた

ここに来て思わぬ収穫があったかもしれないな~と殿下はニコニコと小声でつぶやいていた
勿論アメの耳には届いていない

紫の瞳は彼女しか見ていなかったから

「アメさんも表情あったのですね。ずっと無表情なのかと」

「失礼な」

あけすけに言い合えるのは気持ちがいい
アルにとって殿下以外に初めて気さくに話せる相手だった


「ところで、スミレ、突然だが今夜決行するぞ。ガヴェイン…だったか、彼の」

「で、デー、ガヴェインとは誰ですか?」

「んぐっ、ゴホッゴホッ、ご、ごめんなさい」

「大丈夫か」

アメは立ち上がるとスミレの背中を優しくさする
「は、はい、ちょっとむせただけで、すみません、すぐに拭きます」

アメは優しく背中をさすりながらそのままでと声をかける

テーブルの上はアメが見るだけで、綺麗に溢れてたお茶は消えていた

「ゴホゴホッ、ほんとに魔法ってすごいですね、ありがとうございます、もう大丈夫です」

背中をさすっていたアメにもう大丈夫だと声をかけたスミレは、デーに向き直る

手に感じていた温もりがなくなり、どこか冷たく感じる手を見つめると、アメはスミレの隣の椅子に腰掛けた

何故隣に座るのかと怪訝な顔をするスミレに、何でもない風を装い平然と居座るアメ

アメのことよりもガヴェインの名前をデーが口に出したことが気になるスミレはデーに問いかけた





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