想っていたのは私だけでした

16

「スミレ、スミレ時間だ」

「デー、私が代わります」

この声は…
誰だっけ…

優しく肩を揺さぶられ、仮眠をとっていたことを思い出す
重い瞼を持ち上げると、スミレはベッドから立ち上がった

「ぐっすり眠っていたようだな」

よしよしと頭を撫でられ見つめてくるアメ

この状況に困惑するスミレ

「あ、あの?」

「あ、あぁすまない、デーに言われて自分の気持ちを確認していたところだ」

「どういうことでしょうか?」

「あぁ、やはり撫でると落ち着く」

「はい?」

アメを見上げて文句を言おうとしたスミレは一歩後退る

アメの瞳を見ると囚われるような落ち着かない気持ちになったからだ
何故か背筋に悪寒が走る

アメは後ずさるスミレに一歩距離を詰める

「スミレ、あまりアメを刺激しないように。ちょっと機嫌が悪いから」


「え?寝起きが悪いとかですか。まったくしょうがないですね、わっ」

「行きましょう、デー」

ヒョイっとスミレを抱き上げて外へ向かうアメ

「ちょちょっと、下ろして下さい」

バタバタともがくスミレの様子を気に止めずスタスタ進むアメ

ため息をつきながら外へ向かうデーはスミレへ声をかける
「今から転移するから、少しだけ我慢してほしい」

「こ、この体勢でですか?」

「あぁ、アメがその方が落ち着くから。着いたら下ろさせる。すまない」

「小屋には防御魔法をかけておく」

横抱きに抱えられた為、耳元にアメの声がする

何なのこの状況は…スミレは羞恥にいたたまれず顔を覆う

「揺れが気になるなら私の首に手を回しても構いませんよ」

「しません!」

肌に感じる空気が変わったと思い、恐る恐る目を開けると、揺れを感じるまでもなくどこかの裏路地に佇んでいた。

「お、下ろして下さい」

スミレは身をよじり半ば無理矢理ええいっと、地面に足を下ろして脱出する

「クロ、これを着て」

デーからフードつきのローブを差し出されて身体を覆った。
フードを目深に被ると、スミレはアメと距離をとりデーの後ろに控えた

「ここは?」

「しっ、声を抑えて、あそこに入る」
 
デーが指し示す方向には建物があった
看板はないが何人か人が入っていく姿が見える。

「何かのお店でしょうか?あそこにガヴェインがいる…のですか?」

「闇市だ」

「えっ!んぐっ」

驚き声を上げそうになった所をアメから口を塞がれる。
もう大丈夫だと手をほどこうとするも、なかなか引き剥がせず苦戦した。
見兼ねたデーが助けてくれる

「ガヴェインは、あそこで働いているのですか…」

「いや、…今夜売りに出されるそうだ」

(売りに!)またしても大声を出しそうになったので自分の手で口を覆う

「本来ならクロを連れて来たくはなかったが、見知らぬ我々だけよりもクロがいた方が彼も安心するだろう」

(デー、先程も言いましたが、騎士団で一掃した方が早くありませんか)

(彼を助けた後だ。騎士団が介入すると聴取や何やらで長時間拘束される。恩人の彼女のためだ。彼だけこっそり先に救出して)

(ならば私だけで、魔法で片付けますが)

(いや、そんなことをすれば警戒して逃げる輩も出る。まさかこの辺りを消滅させるつもりではないだろうな?殺すなよ。あくまでも穏便に早急に彼を…競り落とす。その後は彼女と…)


(その前に彼と少し話す時間はもらってもいいですよね? デーの恩人である彼女に相応しいか見極めないと)


(いいか、アメ、我々の任務は彼を救出して彼女へと会わせることだ。彼女に相応しいかどうかは他人が決めるものじゃない)

「クロ、お前は我々が出てくるまでここに隠れているように。アメ、任せたぞ。」

デーは少し離れた所で建物の様子を伺っていた

「クロ、あなたに保護魔法をかけたいところですが、闇市の輩は警戒心が強い。すぐに怪しいと察知されてしまう。
なので人ではなく、この辺りに幻影魔法をかけます。だから何があってもここから出ないように。」

「ここは、ばれないのですか?」

「あぁ、警戒心が強いのでこの辺りに防犯の魔法を奴らがかけているのですよ。なので上書きしてしまおうかと。いいですね。絶対にここから動かないように。私達がもどるまで」
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