想っていたのは私だけでした

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「ちんたらしてんじゃねぇぞ!ボウズ」

「そっちじゃねえ!こっちだろさっさと運べ!」

ビシッ、ビシッと鞭を地面に打ち鳴らす大人達。
その音を聞く度にスミレはガタガタと身体を震わせた

罵声と怒号が飛び交う中、ガウェインと共にひたすら石の入った袋を運んでいく。

数日前上流付近に魔物が現れ、討伐が行われた。その際堤防が決壊し下流付近に大量の水が押し寄せたので、その復旧作業の一環として応急的に水を堰き止める為に、川に石の入った袋を並べている。

まだ魔物の残党がいるかもしれないし、水の勢いに流されてしまうかもしれない危険な作業でとにかく人手がいる。

上流付近は貴族達が住んでいるので、復旧作業はそちらが優先。その為下流付近のこの辺りは日雇いの者達ばかりで、統率がとれずに必然的に荒っぽい指導が行われていた。
上流を堰き止めれば下流の流れは落ち着く。だが大量の土砂や魔物の死骸などもあり、作業は終わりの見えない長期間が予想された。

魔法を扱える者がいれば簡単な作業なのだが、庶民の住むこの辺りに来てくれる者はいないだろう。いかんせん対価を払えないのだから。

「こぉら!てめぇ何ボーッとしてんだ!」

余所見をしながら歩いていたスミレに気づいた監視人が怒声と共に鞭を打ち鳴らす。ヒュッと風を切る音が聞こえたので、スミレは慌てて目を瞑り歯を食いしばる。けれども鞭の音はしたのに痛みがない。恐る恐る目をあけると、スミレの目前にはガウェインの背があった。

「すんません。こいつ視力がちょっと悪くて。サボってる訳じゃないです。俺が言い聞かせますから」

振り向いたガウェインを見たスミレは、そのありさまを見て固まってしまった。
「ガウェイン…血が…だ、だい…じょう…」

「ほら、スー!無駄口はいいからさっさと動けっ。」

心配するスミレを一喝すると、ガウェインが持ち場へと誘導しつつ逃げるように追い立てる

ある程度離れると、「ごめんなスー。怒鳴ったりして」とボソッと謝った。

「ううん、それよりもガウェイン、私をかばって…怪我させてごめん」

手拭いを川の水で湿らせ、ガウェインの血を拭う。こめかみから流れ出ている血は、あまり多くはないけれど、腫れ上がった皮膚から痛々しさが感じられる。

「スーが無事ならこれぐらいどうってことないさ。それにあいつらも俺の顔をみてあまり傷つけないようにしてたし。ほら、俺ってかっこいいだろ?何かあったら高く売れるからな」

「そんなこと…言わないで…売るとか…ガウェインは、私達は…物じゃない…」

「あぁそうだな」

ガシガシっとスミレの頭を乱暴に撫でるガウェイン。
スミレより2つ年上のガウェインは面倒見がよく孤児院でもみんなに頼られる存在だった。

女の子は悪い輩に目をつけられるといけない。ひどい目にあわないように、外に出る時は少年の服装をするようにとスミレにアドバイスをくれた。
スミレもなるべく女だと分からないように髪を短くした。

黒髪、黒目、地味な顔立ちのスミレと違い、ガウェインは今は泥で汚れてくすんでいるけれど、輝くような金髪に漆黒の瞳、力仕事で多少鍛えられた身体つきの目を惹く容姿をしていいた。

スミレはキョロキョロと周囲を見回すと、誰もいないのを確認して、ガウェインのこめかみに手をかざした

手元に意識を集中させるとポワっと光が溢れでる。あっという間に傷跡も消えてなくなる

「相変わらずすごいな」

スミレから治癒してもらったガウェインは思わず呟く

治癒の間、スミレの瞳の色は金色に変色する。まるで孤児院に飾ってある壁画の癒しの女神のように。本人は認めないがスミレは光の魔力を持っている。

光の魔力持ちは貴重なので、保護されるべき存在だ。ガウェインはスミレに伝えてはみたものの、多少の治癒ができるだけ。そんなに大した力はない。それに私の瞳の色は無力の黒だから、誰にも言わないでと笑って流された。

魔力持ちは瞳で判別できる。炎の魔力持ちは赤、水の魔力持ちは青。魔力の強さにより多少濃淡がある。2、3属性使える物は魔力の強い色合いに、4属性以上使える強者は紫の瞳。紫の瞳を持つ者は数えるほどしか存在しない。そして魔力を持たないものは黒い瞳を持つ。スミレもガヴェインも黒い瞳をしていた。



「今日の作業はここまでだ。給金を渡すから順番に並べ!」

監視人が終礼の合図をしている

「スー、俺たちもいこう」
「うん。」

ガウェインとスミレは列に並ぶと今日の給金を貰った。


1日ぶっ通しで働いたけれど、これだけなのね
スミレは銅貨3枚を握りしめて孤児院への帰路につく。

帰り道、通りのお店から香ばしい匂いが漂ってきて誘惑に負けそうになる
ガウェインから給金は孤児院の皆の為に使うものだからと言われている。だから大切に握りしめて黙々と歩いた。
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