想っていたのは私だけでした

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「ぐびひひ、怖がるこたぁねぇですぜお嬢さん、ほんのすこーし軽~く切るだけですから」

じりじりとスミレに近づいていく小男

スミレは恐怖のあまり硬直している

ぶるぶる小刻みに震えながら、遠目にも泣いているのが分かる

「さすがにこれはない!」

デーが行動に移す前に、アルはスミレの元へ転移していた

スミレを片腕で守るように抱きしめ、反対の手で爆破の魔法を発する

男達に死ねと伝わるように睨んだ後に


「まずい!」

デーはアメの魔法から守るように、
会場内の者達へ防御魔法をかけた


男達には死なない程度にする保護を。



轟音が響き渡り、会場は瓦礫の山と化していた


「スミレ、スミレ大丈夫か」

ゆさゆさと揺さぶり呼びかけられ、スミレは目を開けた。

「んー」
(アメさん)

「すまない、すぐに解く」

さるぐつわと両手の縄を解くと、アメはスミレの全身を見回す

「痛かっただろう、これは?あいつが!」

縛られた両手の縄の跡を優しくさすりながら、アメは手に傷があるのを発見しふと手をとめる

「あ、これは違うんです、猫ちゃんに」

「猫?」

「は、はい、あの、ありがとう…ございま…あれ、やだ私…」


助かった安心感から、スミレの目からはポロポロと涙が溢れた

「怖かっただろう、もう、大丈夫だ」

アメはスミレを優しく抱きしめると、背中をさすりながら何度も大丈夫だと声をかける


「なんか、アメさん、優しいです。
らしくない…」

「私をどんな者だと思ってるんだ?
だいたいスミレは私の扱いが雑なんだ」

「すみません…アメさん」

「いや…別に構わない」

ぐずぐず泣きながら、アメの胸元にしがみつくスミレ

「アメ…か」

アメは腕の中にいるスミレに、自身の名前を呼んでもらいたいと思った。

「スミレ…」

「あのー、お取り込み中失礼します。アルバート様」

正装服姿の髪をオールバックにした男性が近づいてきた


「デーが助けたのか。
なぜ私の名を?死にたいのか?」

周囲をさっと見渡したアメは状況を確認する


建物は崩壊しているが、負傷者は誰もいない。いや、小男達は傷ましい姿だ。

あちこちで「何だったんだ」とざわめいていた


スミレが慌てて離れようとするのを、アルは「このままでいい」と抱きしめた手を緩めない。
スミレは誰にも泣き顔を見られたくなくて、アメの胸元にしがみつく

ニヤけそうになる顔を引き締めて男を見据えるアメ

「いやいやいやですよ、やめてくださいよ。私ですよ、アルバート様。あ、これのせいか」

固めた髪をほぐして前髪を足らした姿を見て、アメことアルは驚く。彼は自身と同じ第三王子付きの所属の者だったからだ

「レオナルドか。お前、いつから道を踏み外した?」

「はぁ?いやいやいや、何の冗談ですか?それより殿下はどこです?」

「アル!!!」

そこへデーが「お前は皆殺しにするつもりか」と言いながら近づいてきた






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