想っていたのは私だけでした

26

取り残されたアルとスミレは顔を見合わせる


ふっと微笑みを浮かべるアル。
アメジストのような綺麗な瞳に見つめられて、思わず見惚れてしまうスミレ


シルバーグレーの流れるような髪をひとつにまとめた姿は、絵になる佇まいだとスミレは思う


金色の短髪のガヴェインとは対照的で

そう思うと同時に、先程の言いようのない感情が込み上げてきた

「アル様!そ、そ、そうでした!
お腹すきました。どこかに食べにいきましょう」

先程の甘い空気に耐えられないので、スミレは、明るくごまかすことにした

「あぁ、でもこんな夜中なら、飲み屋くらいしか開いてないと思うが。」

殿下に合流するかと尋ねようとしてアルはその考えを消した。彼女をあの連中の中に連れて行きたくはない

「なんでもいいです。行きましょう」

✳︎✳︎✳︎✳︎

「ぷはぁ~」
ドスンとグラスをテーブルに音を立てながら置くとスミレはくだを巻く


「本当に、男の人って何考えてるか分からないですよね。あんなに、私、ずっとガヴェインのそばにいたのに。ね聞いてます?アルさん」

「あ、あぁ」

先程までアル様と敬語使いだったのが、いつの間にか、さん呼びになっていた。

そのうち呼び捨てになるのではないか。

まぁ、それはそれでいい気分だなとアルは
顔を綻ばせる

「何笑ってるんですか、いいですか、アルさん。あなたも、そうあなたも、もちろんガヴェインもそうですけど、ヒィック、ごめんらさい、失礼しました。

かっこいいから誰にでも優しくしたらダメですからね! 勘違いしますから女性は!」

なんだか嬉しいワードが聞こえたのでアルはすかさず聞き返す

 「かっこいい?私はスミレの好みの顔か?なっ!」

酔ったスミレは、アルの両頬を両手でおおい、ずいっと自分の顔に向かせる


「本当に綺麗です…とても…
アルさん、最初はちょっと残念な人かなって思ったんですけど、優しいですよね」

「そうか…綺麗なのか」

心なしかディスられている気もするが、スミレの好みの顔であるらしい。

女性に容姿を褒められると嫌悪感しか湧かないと思っていたが、相手が違えばこんな気持ちになるものなのだ とアルは気分が高揚する


「ところで、スミレ、酒は強いのか?スミレ?」


ばたんと倒れ込むようにアルに寄りかかってきたスミレ

様子がおかしいと確認すると、どうやら酔い潰れてしまったようだ


やれやれ仕方ないと言いつつ、スミレを抱えて小屋に送り届けることにした

店を出るとすぐに転移して小屋の中へと入る

ベッドへ寝かせようと思い、ふとその前にやることを思い出す

昨夜は殿下が使ったベッド

なぜかムカムカとして、ベッドに洗浄魔法をかける

「これでよし」とスミレをベッドに寝かせた

布団をかけて、自身は隣の部屋へと離れようとした時だった


スミレがアルの腕を掴み、自身へと抱き寄せる仕草をする

「いや、スミレ、そ、それはさすがに、まだ、ダメだ」

酒に弱い方ではないが、こういった状況で一緒にいたら、スミレへの気持ちが我慢できない

何とか脱出を試みるも、寝返りをうつスミレに引っ張られる形で、ベッドに引き込まれてスミレに覆い被さる体勢になってしまった

「なっ!」










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