想っていたのは私だけでした

2

それから数日が経った。
いつものように出稼ぎに行こうとガウェインを探すも、姿がない。

「ねぇ、エリック、ガウェイン見なかった?」

エリックはガウェインを兄のように慕う一人。いつも暇があればガウェインにくっついているのだけど。

 「知らない。」

「え?」

「知らないよ!ぼ、僕のせいじゃない!ほんとに何も知らない!」

エリックは最初は聞こえないくらい小さな声だったのに、最後は叫ぶように大声を出して走り去っていった。

「ちょっと待っ…て…」

呼び止めようと伸ばした手だけが残されて、ため息と共にそっと手をおろした。

「はぁ。」

エリックはガウェインを慕う余り、ガウェインと仲良くする私を良く思っていなかった。

ガウェインにスーは似合わないとか、
ガウェインを独り占めするなとか、

どれもガウェインを慕うからこその言葉
だと聞き流していたけれど。

エリックからしたら、兄のように慕う相手が私のような何の取り柄もない女と仲良くするのは面白くないよね。

「居場所を尋ねただけなのに…」

「エリックを責めないでやっておくれ」

「え?院長先生。私…責めてなんて…」


いつも柔和な笑みを絶やさない院長先生が珍しく思い詰めた表情をしていた。
その雰囲気から何か良からぬことが起こったのだと察してしまう。
 ドクンドクンドクンと心臓が早鐘をうつ。

きっとそれはガウェインのこと…
先程のエリックの態度といい、何かがあったのは間違いなさそう。

でも、どうか予想が外れていますように…

緊張から乾ききった唇をなんとか動かして、院長先生に尋ねることにした

「院長先生…ガウェインは…?」

最近足腰がめっきり弱ったと、コツンコツンと杖をつきながら院長室へと歩き出す。

ここでは話しにくい内容なのだろう。院長先生の後ろを黙って歩く。

室内に入り扉を閉めると院長先生は深々とソファーへと腰掛けた。私にも向に座るように促し、座ったのを確認するとゆっくりと説明をしてくれた。

「年長組は…スミレのみとなった…」

年長組はガウェインと二人だったはず。ということはガウェインは出ていったの?

院長先生の様子からガウェインは自分の意志で出ていったのではないはず。
だって、ガウェインは院長先生を残して出ていったりしない。
ガウェインは優しいから、もっともっと働いてお金を稼いで孤児院のみんなを守っていくと言っていたもの。
 
老いていく院長先生が孤児院の行末を危惧していたから、自分がずっとみんなを守っていくと約束していたもの。だから私も…

孤児院には時々魔力持ちの子も預けられる。魔力持ちの子は大体貴族の訳ありの庶子だが、魔力持ちは貴重なので養子に迎えられてここを出て行く。

魔力持ちでなくても、容姿が良かったり、覚えの良い子は養子に迎えられる。
こういう幼い子達を年少組。

ある程度大きくなった子を年長組と呼んでいる。年長組は働き口を見つけ、生活基盤を整えたら巣立って行く。

孤児院出身では働き口を探すのは難しい。自力で探すとなると、身元保証のいらない日雇いの仕事が主となる。
院長先生が尽力して就職先を見つけてくれたり、運よく住み込みで雇ってもらえたりすることもある。

だけどガウェインと私は孤児院に残り、ここを守っていこうと頑張っていた。出稼ぎにいき、給金を孤児院に持ち帰り過ごしていた。

それはこの先もずっと変わらない日常だと思っていたのに。

「ガウェインはな…エリックを守ったのじゃよ」
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