想っていたのは私だけでした

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「スミレさん、ありがとな。随分楽になったよ。腕のいい治癒師さまじゃな。これは少ないが治療代とお裾分けのりんごじゃ」

「スミレちゃん、ここの傷、治せるかい?今度娘の結婚式なんでね。花嫁の母が顔にこんな傷があったら娘に恥をかかせちまう。あれま、こんなに綺麗に治せちまうのかい。すごいねスミレちゃん。うちに息子がいたらお嫁さんに欲しいくらいだよ」

「スミレさん、またお願いできるかね」

「お大事になさってくださいね。いつもお心遣いありがとうございます」

「ほんまにスミレちゃんは働き者やね」


あれから私も孤児院を出た
申し訳なさそうな院長さまを見るのもつらかったし、エリックと顔を合わせるのも気まずくて。


たまたま怪我した方を助けたご縁で、
その方の所有している空き小屋をお借りして、治療を行っている。

細々ではあるけれど、口コミが広まり顔見知りも増えて何とか食べていけている。
少しではあるけれど孤児院へも寄付をさせてもらっている。

最後の診療を終えて、患者さんを見送った後、小屋に戻ろうとすると小さなうめき声が聞こえた

ここは孤児院と村の中間に位置する山の中。治安はいいほうだけれど、女一人だから警戒を怠っては命取り。

小屋に戻って鍵を閉めた方がいいのだけれど、苦しそうな声が引っかかる
仕方なく武器になりそうな木のえがついた箒を握りしめた

「そこに誰かいるのですか?」

恐る恐る声のする方へと近づいていく

ガサガサッと草を踏むような音がした

「誰?」

「きゃー」

何かいると思い確認もせずに、ええいっと箒を全力で振り下ろしたはずだった

「あれ?」

動かない
箒を振り上げた状態で身体が固まっていた

え?え?

「落ち着いてください。どうか攻撃しないで。怪我人なんです。どうか」

声のする方を見ると、そこには2人の男性がいた
蹲る男性と支える男性

支える男性は私へ手を向けていた

はっと息を呑むほどに魅入られた
とても綺麗な紫色の瞳をしていたから

初めて見た瞳の色

「私達はあなたに危害を加えるつもりはありません。どうか攻撃をしないで」

こくこくと首が動かないので瞳を上下して意志を伝える

箒など何の役にも立たない
攻撃するどころか私なんて一瞬で殺される
まさか紫色の瞳を持つ方に会うことがあるなんて信じられない

ふっと身体の呪縛が解かれた
自由に動けるようになってほっとする

「連れが怪我をしてまして、助けが必要なのです」

「これは…魔物の傷ですね」

「分かるのですか」

「えぇ、治癒師なので。私の小屋が近くにあります。急いで!」

傷口の状態から最悪の事態も考えられる
とにかく寝かせてから治療しないと

「ではお言葉に甘えます。お願いします」

両肩を2人で支えて小屋まで運ぶことにした
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