Depend on…
「しぃちゃんだって、あたしのこと『貴女』って呼ぶじゃん……」
しばらくして、大人しくしていた樹がぽつりと呟いた。
椎名にしてみれば、痛いところを突かれたというところだ。
確かに、椎名は樹のことを名前では呼ばない。
名前で呼べば情が移る。
情が移れば仕事がやりにくくなる。
経験上、それは100%言い切れる。
「愛がないなぁ……。」
答えない椎名を茶化すように言う。
「愛って……。」
「――お前たち……」
樹に冷たい視線を投げ付けた椎名は後ろからの突然の声に驚いた。
「全ったく進んでないじゃないか……」
「局長!こんなところに閉じ込められていたら、進むものも進まないですよ!」
樹の訴えに局長は、頭を掻いて脇に抱えていたファイルを差し出した。
「なんですか、これ。」
「この前、確保した3人が所持していた薬のリストだ。
あいつら、意外に口が堅くてな……
入手ルートはまだ分かってないが、それだけでもかなり……」
「……何これ……。」
樹が資料を見て顔色を変えたので、椎名も覗き込む。
「……嘘だろう。」
そこには、ざっと10種類を超える薬物名がずらっと並んでいた。
「――それだけでも、かなりゾッとするだろう……?」