Depend on…
しばらく走った所で樹が口を開いた。
「1つ言わせて欲しいんだけど……」
「ちょ…っ、言っておきますけど、俺は別に熟女趣味とかじゃないですからねっ。」
「…しぃちゃんの趣味なんかどうでもいいよ。
そうじゃなくて、あの井原って人…。」
「あ、アイツは俺の同期で……ああ見えていい奴ですよ。
春とだいぶ印象が変わって俺も驚きましたけど……」
「……だったら尚更、あんまりやたらと女の人に手を出さない方がいいって忠告してあげなよ。」
樹は完全に井原のあの性格に呆れ返ってしまったようだ。
「……俺もそう思いますけど、いいんじゃないんですか。
井原の生き方ですし……。」
余計なお世話と一蹴されるに違いない。
「それは少し冷たいんじゃない?」
樹が苦笑する。
椎名が冷たいのか、樹がおせっかいなのかは分からないが、確かに、女性関係のいざこざに巻き込まれる前に一度くらい忠告してやってもいいかもしれないと思った。
「それと……」
「それと?」
「人妻には手を出すなよ。しぃちゃん。」
「な……っ」
樹が意地悪そうに笑って走り出したので、俺も思わず走り出す。
こういうのを条件反射と言うのだろうか。
「さっき、俺の趣味なんてどうでもいいって言ってたくせに……!」
「どうでもいいけど忠告だよっ!」
べぇっと舌を出す樹。
それを追いかける俺。
まるで小学生のようなこのやり取りに慣れつつある椎名の姿がそこにあった……