Depend on…
「木本はフリーターだな。定職には就かず、アルバイトも長くは続いていなかった……か。」
「そういう奴もいるんですね……」
樹は大学には進学していない。
23歳で、今、椎名より先輩の捜査官ということは、高校卒業後すぐにERSAへ入局している計算になる。
樹にも大学へ進学し、もっと青春を謳歌する道もあったはずだ。
それでも樹はERSAに入局することを選んだ。
そこには、どれほどの思いがあったのだろう……
どれほどの決意が――……
「しぃちゃん?」
樹の怪訝そうな声で我に還る。
「あ、すみません……」
「結構、ぼーっとしてること多いよね。」
「……すみません。」
「別にいいけど、それが原因でうっかり怪我でもして足引っ張らないでよね。」
「…――はい。」
いつもいつも、どうしてこう厭味なのだろうか。
「……まぁ、どうせすぐ居なくなるんだし。別にいいけどね。」
「―――!??」
今、何て――?
そう聞き返す勇気はなかった。
ただ逆光に照らされた樹の顔を見つめる。
「ちょっと飲み物買って来る。
しぃちゃんはコーヒーでいい?」
「――え……あ、はい。」
さっきのそれがまるで聞き違いかのような笑顔の樹に椎名は反射的に頷く。
しかし、それは決して聞き間違いや冗談などではなかったということを椎名は、身を持って知ることとなるのだった―――