Depend on…
「……人の話、聞いてますか?」
顔を上げると、椎名が心底怪訝そうにこちらを見ていた。
椎名はよくこの表情をする。
この表情を見るたびに「余裕がないな」と思う。
何かに追われて、それ以外の事は全てくだらない無意味なことだと決め付けている――そのくだらなく、無意味なことに付き合わされているときの表情……
思うに、椎名は直情型だ。
潜入捜査や隠密捜査…所謂スパイには向いていないだろう、と樹は苦笑した。
そして嫌悪感剥き出しの椎名に言う。
「しぃちゃんって、あたしのこと嫌いだよねぇ。」
「……は?」
突然の発言に椎名は間抜けな返事をする。
樹の発言はいつも突飛だ。
それに的外れなことを言ってる訳でもない。
敢えて否定も肯定もせず、椎名は黙る。
「否定しないところも、しぃちゃんらしいや。」
自分で話を振っておきながら、臍を曲げる。
嘘でも嫌いじゃないと言えば満足なのだろうか……?
否、それでも不機嫌になるに違いない 。
まともに付き合っていたら疲れるだけだ。
「……ERSAに戻りましょう。他にも思い当たることがあります。」
「…――そうだね。早いとこ片付けよう……!」
呆れ顔で立ち上がった椎名の後を樹はゆっくりと追い掛けた……