Depend on…
「……もう時間も時間だし、しぃちゃんも上がっていいよ。」
「……はぁ。」
おそらく、来客は泰蔵だろうと思った。
樹がそこまで泰蔵にこだわる理由は分からないが、彼女の中での優先順位がたった今、聞き込みから来客へと移り変わったのは明らかだった。
「俺はもう少し調べてから帰ります。
俺のことは気にしないで下さい。」
「……分かった。じゃあ、お先に。」
そう言うと樹は駆け足で部屋を出て行った。
「それでは、私もこれで。」
樹を呼びに来た事務員も椎名に小さく一礼すると、自分の仕事に戻っていった。
「――…ふぅ……。」
一人きりになった部屋で大きく手足を伸ばし、深呼吸する。
(やっと解放された……)
樹の傍を離れると解放された気になるのは、余計なことをあれこれ考える必要がなくなるからだろう。
ほんの僅かな時間だけ、何も考えず天井を見上げた椎名は再び気を引き締める。
1つの仕事に時間を掛けるのは好きではない。
今回だってそうだ。
早く片付けて、この煩わしさから解放されたい――…
その一心で、椎名はパソコンに向かい直すのだった。