Depend on…
樹の問い掛けに浅井は黙って、俯いたまま答えようとしない。
「……誰に聞いてたの?あたしたちが来るコト――」
「――…」
浅井が何か口を開きかけたとき、コンコンというノックの音と共に、女性が一人、入って来た。
「その、山田という社員の、下のお名前は……?」
「緋口さん……!」
今まで真っ青だった浅井が、今度は真っ赤になって立ち上がった。
「申し訳ありません。お茶のお代わりをお持ち致しましたら、聞こえてしまって……」
言葉通り、手には湯飲みの乗った盆を持っている。
「あの、山添様のおっしゃる山田という社員のフルネームが分かれば、お調べすることは可能でございますが……」
如何なさいますか、と瞳が問い掛けている。
自信に満ちた、挑発的な瞳だ。
暫時、緋口と見つめ合い……否、睨み合った樹は、不快さを全面に表した深いため息をつくと
「山田一男」
と吐き捨てるように言った。
「かしこまりました。少々お時間頂いてもよろしいですか?」
わざとらしいくらい満面の笑みで、そう確認すると緋口は部屋を後にした。
「一旦、席を外したいので用意が出来たら連絡を」
出ていこうとする背中に、樹が言う。
すると緋口は丁寧にも、わざわざ向き直り「かしこまりました。」と言って部屋をあとにしたのだった。