Depend on…


樹の問い掛けに浅井は黙って、俯いたまま答えようとしない。


「……誰に聞いてたの?あたしたちが来るコト――」


「――…」


浅井が何か口を開きかけたとき、コンコンというノックの音と共に、女性が一人、入って来た。


「その、山田という社員の、下のお名前は……?」


「緋口さん……!」


今まで真っ青だった浅井が、今度は真っ赤になって立ち上がった。


「申し訳ありません。お茶のお代わりをお持ち致しましたら、聞こえてしまって……」


言葉通り、手には湯飲みの乗った盆を持っている。


「あの、山添様のおっしゃる山田という社員のフルネームが分かれば、お調べすることは可能でございますが……」


如何なさいますか、と瞳が問い掛けている。

自信に満ちた、挑発的な瞳だ。


暫時、緋口と見つめ合い……否、睨み合った樹は、不快さを全面に表した深いため息をつくと

「山田一男」

と吐き捨てるように言った。


「かしこまりました。少々お時間頂いてもよろしいですか?」


わざとらしいくらい満面の笑みで、そう確認すると緋口は部屋を後にした。


「一旦、席を外したいので用意が出来たら連絡を」


出ていこうとする背中に、樹が言う。


すると緋口は丁寧にも、わざわざ向き直り「かしこまりました。」と言って部屋をあとにしたのだった。
< 47 / 85 >

この作品をシェア

pagetop