Depend on…


「当たり前でしょ。家族なんだから、裏切るわけが……」


「だから、どうして家族だからって裏切らない理由になるんですか。」


ざわり、と空気が揺れる音がした。


「……どういう意味?」


「あの中には絶対裏切り者なんかいないなんて、決めつけるべきじゃ……」


ない――。


そう言い終わる前に、胸倉を掴まれ、凄い勢いで樹の傍へ引き寄せられた。


こんな状況でなければ、実にロマンチックな距離なのだろうが、その空気は痛いくらいに張り詰めている。


「何のつもりか知らないけどね……あたしたちの中に裏切り者なんていない!!

いるとしたら、入ってきたばかりのお前が一番……っ!」



そこで我に還ったように口を噤む。


「…………」


「……ごめん…あたし……」


まるで禁句を口にしてしまったかのように顔を青くして、静かにシートに戻った。


俯き、今にも泣き出しそうな樹を目の前に、椎名は胸が小さく痛むのを感じた。


この人にとっては、自分も既に「家族」の一員なのだと、それを疑う発言をしたことで樹が自分を責めているのだと


そう、分かっても椎名は謝らなかった。


自分は間違ったことは言っていない――


例え信じ難く、辛いことだとしても頭の隅に置いておいた方がいい……


何故、そう思ったか、椎名自身にも分からなかったが、気が付いたら言葉が口を突いて出ていた。
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