Depend on…
樹の携帯電話には緋口からの留守番電話が残されていた。
《もしもし、私ゼノン株式会社の緋口と申します。
こちらは麻薬取締特別機関関東支局、麻薬捜査官、山添樹様の携帯電話かと存じます。》
「あーもう!前置きが長いっ!」
「静かにしてください。
聞こえないじゃないですか。」
社会人としては当たり前の電話口の挨拶さえも、今の樹には腹立たしく感じてならない。
ロボットのように淡々とした口調が更に苛立たせる。
樹の隣で電話に耳を当て留守電を聞いていた椎名が眉間にシワを寄せた。
普段は関わりたくもないようなことを言うのに、ふとした時に無防備だから分からない。
こうして、身を寄せてくるような事もあるのかと樹の方がドキマギしてしまう。
(よく分かんない人だな……)
「ちゃんと聞いてますか?」
「あぁ、はいはい。」
椎名に咎められ、再び留守電に意識を戻す。
《先程、問い合わせを承りました山田一男という派遣社員ですが》
「はいはい。どうせ実在しませんよ。」
「静かにしてくださいって!」
《こちらの書類では、退社は2ヶ月前となっております。》
「いたのかよ!」
携帯電話を叩きつけんばかりに振り上げた樹の腕を椎名が止めた。
《必要がございましたら、書類をお送り致しますので、いつでもご連絡下さい。》
電話の向こうの緋口の勝ち誇った笑みが見えるようだった……