Depend on…
「……着きましたよ。」
着くまで眠っているのかと思うほど大人しかった樹に声を掛けると思いの外、元気な声が返って来た。
「ありがとう。
結構優しいとこもあるね。」
と、ニッと笑う。
「俺は元々寛大で優しい人間ですよ。」
冗談半分で椎名がそう返すと「そうだね。」とそれを肯定する言葉が返って来たので拍子抜けしてしまった。
「……しぃちゃんみたいな人はさ、自分勝手で我が儘で、
自分の力で何でも出来ると思ってる、
ケツの青い勘違い野郎の浅はかな行いで損をするんだよ。」
それは椎名への忠告とも、自分自身の懺悔とも受け取れた。
「貴女のような?」
「失礼だねー!今はそんなことありませんー!」
「『今は』?」
「そりゃ昔はね。それなりに無茶したし。
青かったけど。」
また「ニッ」と笑う。
少しの沈黙の後、「じゃあ、そろそろ行くわ。」と樹が車を降りた。
ドアが閉まり、椎名も車を出そうとギアを入れた瞬間、再びドアが開き、樹が顔を覗かせた。
「こういう時は窓を開けて!
最後に労いの言葉を掛けて終わりでしょ!?
お疲れ様ですとか、なんかあるでしょう!」
「……はぁ。」
あまりピンと来ない様子で返事をする椎名にため息をつく。
「まぁいいや。とりあえずお疲れ様。
明日からまた気合い入れて捜査するから。」
「はい。お疲れ様でした。」
「よし!」と笑いと自宅に向かう樹を見送った椎名は、今度こそ車を発進させるのだった。