Depend on…
今ではすっかり珍しくなくなったオートロック式のエントランスでセキュリティに問題はなさそうだ。
真山の部屋は8階で、エレベーターに乗っている間、樹はオーナー夫人から質問攻めにあっていた。
樹は基本的に社交的……と言うか、人懐っこさがある。
その点、椎名千秋は無愛想だ。
社交的に振る舞うチャンスを逃してしまったのだ。
元々それほど社交的ではないが、愛想良くしていた方が仕事が円滑に進むことは分かっていた。
分かっていたのだが……いざ、樹を目の前にした時、何となく無理だと感じた。
性格を偽ること……偽り通すことは難しいと直感したのだ。
そして、愛想などと言う装備がなくとも仕事を全うする自信も椎名にはあった。
そうして今に至るのだが、寧ろこれで正解だったのではないかと思う。
「着きましたよ。」
オーナー夫人が話を通しておいてくれたおかげで真山は快く迎え入れてくれた。
オーナー夫人は玄関で「また寄ってね」と樹と握手を交わすと自分の部屋に戻っていった。
「それで、お伺いしたいのは半年ほど前のことなんですが……」
お茶を入れてくれていた白く美しい手が止まった。