拾いました。
「それじゃあ、私は藍(あい)さんとでも呼んでくれたら嬉しいわあ」

「……藍、さん」


にっこりと微笑んだお母さんは、緋刻の頬にふれて


「何があったのかは分からないけれど。いつか、いつか聞かせてね? 力になれるなら、なりたいの。……だから、お父さんも家に居ろって言ったんじゃないかしら」

「——っ! はい、ありがとうございます……っ」

「ふふ」


私には、最後の方が聞き取れなかったけれど。緋刻が笑っているように見えたので、聞き直さないことにした。

す……っと。おもむろに膝を付き、手を前に持っていく緋刻。


「ひ、緋刻くん?」


お母さんとお父さんは、困惑の眼差しを向けている。何をする気だろう…?


「不束者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」


そう言い、頭を深々と下げて。緋刻には申し訳ないが、心の中でこう思ってしまった。

狐の嫁入りならぬ、“狐の婿入り”みたいだと。


「あらあら」

「まあ、面倒をみてやらんことも、なくはないかも……」


と、続けて。


「緋刻くん」

「はい」



お父さんが緋刻を立たせ、一言。


「下を、はきなさいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

「あの僕……服とか持っていなくて……」

「持ってない?! why?!」


そうして、わいわいとした雰囲気の中。狐と人間の、不思議な生活が始まった
< 28 / 56 >

この作品をシェア

pagetop