身代わりの少女騎士は王子の愛に気づかない

【2-6】説明を

 何をどこまで知っているのかわからず、しどろもどろになりながら説明をする。

(たしかカイルも私のことを「花嫁」と言っていたから、ついそのまま話してしまったけど。使節団に加わっていなかったカイルは、姫の駆け落ちを知っているのかな)

 まずはその説明から、と身構えて言ってはみたものの。
 にこり、とカイルは微笑んだ。少年めいて見える端整な容貌が、窓からの星明りに際立つ。

「その髪。姫と同じ色に染めていたし、切り裂かれてはいたけれど、およそ護衛騎士らしからぬドレスを着ていた。大体の事情は理解しているつもり。ひどい男だね」

 なぜか背筋に寒気が走るほどの冷気に満ち満ちた声。
 気のせいでなければ、怒っている。

(カイル?)

「ドレス……は、あれは自分で! アクチュエラ城で捕まって逃げることになって、動きにくくて」
「どうして国賓と招かれた城でそんな目に遭うんだ。あの王子は一体何をしてそこまで怒りをかったんだ?」

 自分の説明能力のなさに焦りを覚えつつ、「違うの」とアシュレイは繰り返した。

「エグバード様は悪くないの。アリシア姫がエグバード様を好いて……執着してらっしゃって。それで、自分を振って妻を迎えたエグバード様を逆恨みしていて。それで、姫様のふりをしていた私を葬ろうとしていたみたいなんだけど……ブスだから許してもらえた? みたいで」

 絶望的に説明が下手だ。間違いない。 
 カイルは凍り付いたような笑みを浮かべたまま「寝たら?」と言ってきた。
 明らかに、真に受けていない。

「カイル、話を聞いて。何かこう、いまたぶん、すごく誤解がある」
「大丈夫、大体わかっている。つまりアシュレイは団長と駆け落ちしたレイナ様のふりをして、エグバード様と結婚したふりをした。その挙句、殿下の昔の女に刺された。そういうことだね?」

 だいぶ端折られた気がしたが、大筋は間違いではない。

(間違いではない……かな?)

 心許無い。何かが。絶対に何か見落としていると思えば思うほど、動悸が激しくなってきて、すぐには眠れそうにない。

「カイル」

 未練がましく声をかけたところで、目の上に大きな手を置かれて、強制的に目を閉ざされた。

「まず寝なさい、アシュレイ。話は明日だ。口答えは許さない。これ以上夜更かしするつもりなら、気絶させる。喋らないで」

 視界がきかないというのは、生殺与奪を握られている緊張感がすごい。
 アシュレイはひとまず口を閉ざした。納得はしていない。

(エグバード様は……今どうなさっているんだろう)

 考えているうちに、弱り切った体が休息を必要としていたらしく、眠りに落ちた。
 夢は見なかった。

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