身代わりの少女騎士は王子の愛に気づかない
【3-2】その決闘、意味ある?
「エグバードさま……!!」
(時間的には一晩くらいですけど、意識朦朧状態を考えると結構お久しぶりです!!)
という内容を込めてアシュレイはその名を呼んだ。
アシュレイが思ったよりも元気そうだったせいか、エグバードは目元を和ませた。
「すまない。ほんの一瞬のスキになんだかよくわからないことになって。無事だったか」
なんだかよくわからないこと=カイルがアシュレイ誘拐。
「はい!!」
(あ~、やっぱりなんだかわかってないですよね!? 私もです!!)
何せカイルに横抱きにされていて、いわば命を握られている状態なので、滅多なことが言えないままアシュレイはひたすら短縮言語で応答していた。
「間抜けな王子様のご登場か」
カイルは唇の端を吊り上げて不敵に笑う。
(それは完全に悪役のセリフだと思うよ?)
この状況、誰がどう見てもエグバードがお姫様(※じゃない)アシュレイを救出しにきたヒーローで、カイルは攫った方だ。ことこの期に及んで、自分こそが正義と言う理屈を展開できるものなら、ぜひしてみて欲しい。
「アシュレイを返してもらおう」
「いやだ。アシュレイ、結婚してそんなに日も経っていないのに死にかけていたんだけど。おかしくない?」
「カイル……!!」
(カイル視点ならそうなるかもしれないけど、私を殺そうとしたのはアリシア姫で、エグバード様は守ろうとしていたの!! 守り切れなかったけど!!)
という気持ちを込めてカイルのシャツの胸元を指で掴むと、何故か手に手を重ねられて間近でにこりと微笑まれた。
「君の為に戦うよ」
「えーと?」
脇腹に響くのも構わず、素で聞き返してしまう。
(私たちって、そういう間柄でしたっけ?)
落ち着け。そうだ落ち着いて考えてみよう。
さーっとカイルと過ごした日々を思い出してみた。
あまり、内容がなかった。そこまで仲良かった記憶が無い。少なくともなんらかの約束や、恋愛らしきものに関するイベントなどもなかったように思う。
ただの同僚。
「アシュレイを追いかけてここまで来たその執念はなかなかのものだが、譲ることはできない」
エグバードもまた瞳を炯々と光らせて応じているが、アシュレイとしては微妙に納得がいかない。
(執念……? 執着されるような理由が何ひとつ思い浮かばないんですけど)
「アシュレイ、あんな奴すぐに血祭に上げてあげる。ちょっと待っててね」
カイルはアシュレイの手を掴んだまま自分の唇を寄せて、軽く口づけをした。
理解が追いつかずに、アシュレイは呆然と見上げてしまう。
「カイル……、何か変なもの食べた?」
「ううん。むしろ食べてない。アシュレイに大体食べられた」
「そういえば」
愚にもつかない会話を最後に、カイルにそっと草地に置かれる。
そのまま、カイルはアシュレイを背後にかばいつつエグバードに向かい合った。
「ここなら目撃者もそうそういないだろうし、王子様を葬るにはうってつけだ。のこのこついてきてくれてありがとう」
(う~ん、やっぱりカイルが悪役だと思う)
食べ物は気前よく分けてくれたが、人の話は聞かないし、エグバードとは剣を交えようとしているし。
「なるほど、こちらも真剣にいかせてもらおう」
エグバードもまた、すらりと剣を抜き放って応じる構え。
妻を奪われ、葬る宣言されたエグバードが戦おうとするのは流れとして理解できる。できるのだが。
(この決闘、なんの意味が? 話し合えばよくない?)
森に飛び込んだエグバードを追いかけてきたのだろう、茶色髪の青年がエグバードの背後の木立からひょこっと顔をのぞかせて、アシュレイに軽く手をふってきた。
エグバードの側仕えだ。あの恐ろしいアリシア姫の歓待の夜から無事逃れてきていたらしい。
「ライアス、さん、いてて」
姿を見てほっとして動こうとしたら、鋭い痛みがはしる。
傷むお腹を手でおさえ、顔をしかめながらアシュレイは上半身を起こして、近くの木に背を預けた。はあ、と乱れた息がもれる。
「迎えに来るの遅くなってごめんなさい。怪我どう?」
おそろしく牧歌的に尋ねられた。
つい気持ちが和んで「大丈夫です」と答えてしまった。大丈夫ではない。
だが、そのまま無理をおして声にしてみた。
「あの、あのふたり、たたか……」
「血の気多いよねえ」
またもや牧歌的に答えられて(そうだなぁ)と納得してから、そんな場合ではないとアシュレイは首を振る。
「止めてください……、まずは話し合うように……言いたいです!!」
傷の痛みに耐えつつ、声を振り絞って伝えてみた。
(時間的には一晩くらいですけど、意識朦朧状態を考えると結構お久しぶりです!!)
という内容を込めてアシュレイはその名を呼んだ。
アシュレイが思ったよりも元気そうだったせいか、エグバードは目元を和ませた。
「すまない。ほんの一瞬のスキになんだかよくわからないことになって。無事だったか」
なんだかよくわからないこと=カイルがアシュレイ誘拐。
「はい!!」
(あ~、やっぱりなんだかわかってないですよね!? 私もです!!)
何せカイルに横抱きにされていて、いわば命を握られている状態なので、滅多なことが言えないままアシュレイはひたすら短縮言語で応答していた。
「間抜けな王子様のご登場か」
カイルは唇の端を吊り上げて不敵に笑う。
(それは完全に悪役のセリフだと思うよ?)
この状況、誰がどう見てもエグバードがお姫様(※じゃない)アシュレイを救出しにきたヒーローで、カイルは攫った方だ。ことこの期に及んで、自分こそが正義と言う理屈を展開できるものなら、ぜひしてみて欲しい。
「アシュレイを返してもらおう」
「いやだ。アシュレイ、結婚してそんなに日も経っていないのに死にかけていたんだけど。おかしくない?」
「カイル……!!」
(カイル視点ならそうなるかもしれないけど、私を殺そうとしたのはアリシア姫で、エグバード様は守ろうとしていたの!! 守り切れなかったけど!!)
という気持ちを込めてカイルのシャツの胸元を指で掴むと、何故か手に手を重ねられて間近でにこりと微笑まれた。
「君の為に戦うよ」
「えーと?」
脇腹に響くのも構わず、素で聞き返してしまう。
(私たちって、そういう間柄でしたっけ?)
落ち着け。そうだ落ち着いて考えてみよう。
さーっとカイルと過ごした日々を思い出してみた。
あまり、内容がなかった。そこまで仲良かった記憶が無い。少なくともなんらかの約束や、恋愛らしきものに関するイベントなどもなかったように思う。
ただの同僚。
「アシュレイを追いかけてここまで来たその執念はなかなかのものだが、譲ることはできない」
エグバードもまた瞳を炯々と光らせて応じているが、アシュレイとしては微妙に納得がいかない。
(執念……? 執着されるような理由が何ひとつ思い浮かばないんですけど)
「アシュレイ、あんな奴すぐに血祭に上げてあげる。ちょっと待っててね」
カイルはアシュレイの手を掴んだまま自分の唇を寄せて、軽く口づけをした。
理解が追いつかずに、アシュレイは呆然と見上げてしまう。
「カイル……、何か変なもの食べた?」
「ううん。むしろ食べてない。アシュレイに大体食べられた」
「そういえば」
愚にもつかない会話を最後に、カイルにそっと草地に置かれる。
そのまま、カイルはアシュレイを背後にかばいつつエグバードに向かい合った。
「ここなら目撃者もそうそういないだろうし、王子様を葬るにはうってつけだ。のこのこついてきてくれてありがとう」
(う~ん、やっぱりカイルが悪役だと思う)
食べ物は気前よく分けてくれたが、人の話は聞かないし、エグバードとは剣を交えようとしているし。
「なるほど、こちらも真剣にいかせてもらおう」
エグバードもまた、すらりと剣を抜き放って応じる構え。
妻を奪われ、葬る宣言されたエグバードが戦おうとするのは流れとして理解できる。できるのだが。
(この決闘、なんの意味が? 話し合えばよくない?)
森に飛び込んだエグバードを追いかけてきたのだろう、茶色髪の青年がエグバードの背後の木立からひょこっと顔をのぞかせて、アシュレイに軽く手をふってきた。
エグバードの側仕えだ。あの恐ろしいアリシア姫の歓待の夜から無事逃れてきていたらしい。
「ライアス、さん、いてて」
姿を見てほっとして動こうとしたら、鋭い痛みがはしる。
傷むお腹を手でおさえ、顔をしかめながらアシュレイは上半身を起こして、近くの木に背を預けた。はあ、と乱れた息がもれる。
「迎えに来るの遅くなってごめんなさい。怪我どう?」
おそろしく牧歌的に尋ねられた。
つい気持ちが和んで「大丈夫です」と答えてしまった。大丈夫ではない。
だが、そのまま無理をおして声にしてみた。
「あの、あのふたり、たたか……」
「血の気多いよねえ」
またもや牧歌的に答えられて(そうだなぁ)と納得してから、そんな場合ではないとアシュレイは首を振る。
「止めてください……、まずは話し合うように……言いたいです!!」
傷の痛みに耐えつつ、声を振り絞って伝えてみた。