身代わりの少女騎士は王子の愛に気づかない

【4-4】初めて会ったときから

 エグバードが旅の途中でアシュレイの故国を訪れたときのこと。

 レイナの美貌に近寄りがたいものでも感じたのか、エグバードが話しかけていたのはもっぱらアシュレイの方だった。それも、剣や稽古の話など、およそ女性らしい会話でもなく。
 失礼にならない程度の受け答えを意識しつつも、楽しく感じてしまったのもまた事実であった。
 その後、エグバードからレイナに結婚の申し込みがあったときには、レイナを祝福する気持ちの裏に失望したような感覚もあり、自分の気持ちを持て余してしまった。
 それでも、近くにいればまた会うことができるという希望を胸に、祖国を出る決断をしてレイナに付き従ってきたというのに。
 まさかのレイナの駆け落ち、そしてエグバードからは。

 妻になれ、と。

 馬鹿なことを、そんな誤魔化しが通用するわけがないと危ぶみながらも引き受けてしまったのは、断りたくなかったから。
 それでいて、素直になることはできなかった。自分は身代わりなのだと、ずっと自分に言い聞かせて「好き」を表面化させないように腐心してきた。
 そして、危機にあえばあったで、彼を守って死ねるのならと本気で思ってしまって……。

(その絶大なる危機に陥れてくれたのがアリシア様なので、命を拾ったからといって即座に懐けるかというとそれもまた微妙なところなのだけど……)

 結果的に今は仲良しのように振舞っているし、実際好ましく思っているのだが、どこかうまく言いくるめられたような感覚がぬぐえない。
 しかし、それでもアリシアがいてくれて良かった、と無理矢理に自分を納得させた。

「自分の心に嘘をついていたとして、アリシア様のおかげで吹っ切れたことには感謝しています。その……陥れられはしましたけど、それ以上のものを頂いたといいますか。怪我はまだ痛いですけど、ここまで尽力して頂いて感謝していますし……」

 肌に香油を擦りこまれ、髪もくしけずられてまばゆいばかりの絹地の下着を身に着けさせられながら、アシュレイはアリシアにそっと尋ねた。

「私、もう少しで処女じゃなくなるかもしれないんですけど、生き血が必要なら今のうちに」

 ぐりっと再び傷口に扇をねじこまれる。そろそろ本当に傷口が開いてしまう、と呻いたところで冷たく言い捨てられた。

「まだ何も果たしていないわりに余裕そうだけど、結構よ。わたくしは一度たりともあなたに処女血なんか要求したことはないのだけれど、何を勘違いしているのかしら?」

 たしかに、とアシュレイは身をかがめながら認めざるを得なかった。



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