身代わりの少女騎士は王子の愛に気づかない
【2-1】甘い水
何度か目を覚ました。
そのたびに、この夢はいつさめるのだろう、と思った。
体が重くて怠くて、痛い。脇腹のあたりがじくじくと痛んでいて、おそらくどうにかなっているのだと思う。
「痛い……」
声は掠れて、ほとんど出ない。
アシュレイは、瞼に力をこめてうっすらと目を開けた。
きつく眉を寄せて心配そうにしているエグバードの顔が間近に見える。何度目覚めても、いつもすごく近くにいるような気がする。
「可哀そうに。本当にすまないことをした。君を盾にする気などなかったのに」
苦し気な声。
(なぜ謝りますか。責めているわけでは……)
ただ痛いだけ。
伝えたいのに、なかなか声にならず、その目を見つめる。
視界は熱に浮かされたように滲んで頼りなく、状況の把握がうまくできない。
(エグバード様は……、何をして?)
目がどうかしているのかもしれないが、エグバードの位置は近すぎるように思うし、首から肩や鎖骨のラインにかけて、衣類を何も身に着けていないように見える。
やがて、目を開けていられずに閉じて吐息をすると、首の後ろにごく軽い揺れ。まるで腕枕でもされているようだ。
アシュレイの全身は、熱くて硬くてしなやかなものにしっかりと包まれている。
男と肌を合わせたら、こんな感じなのだろうか、とぼんやりと考えた。経験がないのでわからない。
「まだ寝るな。少しでも水を……」
意識が混濁し始める中、エグバードの声が聞こえる。目は開けられない。
「アシュレイ」
囁きの少し後、唇に柔らかく湿った感触。
唇の合わせ目を割り開くようにゆるく上下に押されて、舌の上に少しずつ水をのせられる。
潤いを口内に感じたその瞬間、乾ききっていたことを思い出したように、口が半開きになる。
はあ、と吐息をもらしながら、与えられる水を喉に受けてこくんと飲み込んだ。
(水……、もっと……)
アシュレイの反応を見ながらなのか、水はあくまで湿らせるほどに少しずつしか与えられない。
近いところで、エグバードの呻き声が聞こえた。
唇に触れていたものが、すっと出て行ってしまう。心なしか、焦りのようなものが伝わってきた。
(……なに?)
何が起きたかわからないまま、アシュレイは水を飲みこみ、小さく呟いた。
「水……」
うまく飲み込めなかった水が、半開きの口からすうっと伝った気配。
「あ、ああ。大丈夫そうならもう少し」
こぼれた水は、拭い去られた。感触的に、指で。
「水差しのようなものがなくてな。こうする他なかったんだが、非常事態ということで目を瞑ってくれ。名目上俺たちは夫婦なわけだし、俺がこうするのが一番適任だと思ったからしている。その……、邪な考えがあったわけではない。あくまで傷ついたお前を介抱しているだけで」
早口で、言い訳のようなものを繰り出されるも、いまのアシュレイには半分も理解できない。
わかったのは、やはり自分は怪我をしているらしいということと、何やらエグバードの手を煩わせているらしいということだけだ。
複雑な返事はできなかったので、一言だけ告げる。
「はい」
そこで意識が飛びかけたが、すぐに唇を割って水を与えられ、反射的に吸い付いた。
先程よりも少しだけ感覚が戻ってきている。
与えられるがままに一生懸命飲み干した水は、甘く感じられた。
そのたびに、この夢はいつさめるのだろう、と思った。
体が重くて怠くて、痛い。脇腹のあたりがじくじくと痛んでいて、おそらくどうにかなっているのだと思う。
「痛い……」
声は掠れて、ほとんど出ない。
アシュレイは、瞼に力をこめてうっすらと目を開けた。
きつく眉を寄せて心配そうにしているエグバードの顔が間近に見える。何度目覚めても、いつもすごく近くにいるような気がする。
「可哀そうに。本当にすまないことをした。君を盾にする気などなかったのに」
苦し気な声。
(なぜ謝りますか。責めているわけでは……)
ただ痛いだけ。
伝えたいのに、なかなか声にならず、その目を見つめる。
視界は熱に浮かされたように滲んで頼りなく、状況の把握がうまくできない。
(エグバード様は……、何をして?)
目がどうかしているのかもしれないが、エグバードの位置は近すぎるように思うし、首から肩や鎖骨のラインにかけて、衣類を何も身に着けていないように見える。
やがて、目を開けていられずに閉じて吐息をすると、首の後ろにごく軽い揺れ。まるで腕枕でもされているようだ。
アシュレイの全身は、熱くて硬くてしなやかなものにしっかりと包まれている。
男と肌を合わせたら、こんな感じなのだろうか、とぼんやりと考えた。経験がないのでわからない。
「まだ寝るな。少しでも水を……」
意識が混濁し始める中、エグバードの声が聞こえる。目は開けられない。
「アシュレイ」
囁きの少し後、唇に柔らかく湿った感触。
唇の合わせ目を割り開くようにゆるく上下に押されて、舌の上に少しずつ水をのせられる。
潤いを口内に感じたその瞬間、乾ききっていたことを思い出したように、口が半開きになる。
はあ、と吐息をもらしながら、与えられる水を喉に受けてこくんと飲み込んだ。
(水……、もっと……)
アシュレイの反応を見ながらなのか、水はあくまで湿らせるほどに少しずつしか与えられない。
近いところで、エグバードの呻き声が聞こえた。
唇に触れていたものが、すっと出て行ってしまう。心なしか、焦りのようなものが伝わってきた。
(……なに?)
何が起きたかわからないまま、アシュレイは水を飲みこみ、小さく呟いた。
「水……」
うまく飲み込めなかった水が、半開きの口からすうっと伝った気配。
「あ、ああ。大丈夫そうならもう少し」
こぼれた水は、拭い去られた。感触的に、指で。
「水差しのようなものがなくてな。こうする他なかったんだが、非常事態ということで目を瞑ってくれ。名目上俺たちは夫婦なわけだし、俺がこうするのが一番適任だと思ったからしている。その……、邪な考えがあったわけではない。あくまで傷ついたお前を介抱しているだけで」
早口で、言い訳のようなものを繰り出されるも、いまのアシュレイには半分も理解できない。
わかったのは、やはり自分は怪我をしているらしいということと、何やらエグバードの手を煩わせているらしいということだけだ。
複雑な返事はできなかったので、一言だけ告げる。
「はい」
そこで意識が飛びかけたが、すぐに唇を割って水を与えられ、反射的に吸い付いた。
先程よりも少しだけ感覚が戻ってきている。
与えられるがままに一生懸命飲み干した水は、甘く感じられた。