色褪せて、着色して。~リリアン編~
 馬車が止まって。
 ジャックさんにエスコートされて降りると。
 ででーんと効果音が出そうな巨大な建物が目の前にあった。
 恐らく…宮殿なのだと思う。
 やけに凝った装飾が目に入る。
 扉を開けてもらい、中に入ると一気に緊張感が増してくる。
 ジャックさんは迷うことなく「こちらです」と行って私を誘導してくれる。

 騎士の人って皆、すべての建物を把握しているのだろうか?
 私は、案内してもらっているから。今回、この建物が初めてかどうかもわからない。
 階段を上がると。
「どうぞ、こちらへ」と言ってジャックさんが部屋のドアを開けた。
 中に入ると、何故か目の前にはグランドピアノが置いてある。
「へ?」
 てっきり、応接間か執務室にでも案内されるかと思ったのに。
 どうしてピアノ?

 くるりと振り返ると同時に。
 バタン…ガチャ…という大きな音が聞こえた。
 ドアを閉めたのまではわかる。
 え、がちゃ…というのは?

 まさか鍵をかけたわけじゃないよね。
 不安になってドアを開けようとしたが、見事に開かなかった。
「え、ジャックさん!」
 ドアノブを押して引いてを繰り返すがびくともせず。
「ジャックさん、ジャックさん、ジャックさん、どういうこと!?」
 姿を消したジャックさんの名前を連呼したけど。
 ドアの向こうからは何も聞こえなかった。

「ねえ、誰かいませんかー?」

 宮殿かもしれないというのに。
 所かまわず、私は腹の底から声を出して、助けを求めたのだった。
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