色褪せて、着色して。~リリアン編~
 一体、何が起きるというのだろう。

 身支度を終えて、さっきのピアノのある部屋に戻ってきて。
 立ち尽くすことしか出来ない。
 綺麗に着飾って。
 王族の誰かを待っている。
 今までは、直球で命令されてきたというのに。
 急に焦らされると、不安でいっぱいになる。

 軟禁して、ピアノ弾かせて。
 …で?
「誰が来るんでしょうか?」
 ドアに向かって言ったけど。
 誰も来る気配もない。
 はああ…と大きなため息をついて。
 ピアノの前に、どかっと座り込んだ。
 姿勢を正して。
 鍵盤の上に手を乗せる。

 スペックがピアノだとはいえ。
 私は、結局のところ。
 ピアノを弾くのが好きなのだ。

 ドミソ…と右手で弾いて。
 左手を動かす。
 王族の人達は皆、花の名前の呼び名だ。
 ローズ様にちなんで。
「薔薇」という曲を弾いた。
 私の国では、マイナーな曲だけど。
 アップテンポで、時に激しく。後半は優雅な曲になる。

 待たされている間、あれだけ弾いたのに。
 また、弾いている。
 弾いている間は何も考えなくていい。

 弾き終えると。
 がちゃ…という音がして誰かが入ってきた。
 私は飛び上がるように立ち上がった。
 気づけば、夕方だった。
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