総長を散歩する元姫のリードデートはやり返しが怖すぎる〜
年齢を重ねた私からはなんだか危うく見えるけれど、なんだかんだ一生続くかもしれないし、こればっかりは分からないわ。
お互いに無理はしないこと。相手の気持を試すようなことはしないこと。相手を悲しませるようなことはしないこと。人間関係に置いて全てに言えるわ。若いうちはいいかもしれないけど、我慢の限界を超えたとき、急に嫌になったり、疲れたりして、関わりたくなくなるから。
説教臭くなるのは歳のせいかしら。

「言えてる?」
「信じたくないけど…」

 夫、律はX上で唯一無二性ある程のいい女と認めた犬好きの彼女に、犬らしくペディーグリーチャムをぶち撒ける返信をお見舞いし、嫌われに行くのも訳があった。言えてるからだ。妻、芳乃より言えてそうな文脈を気にしてしまったからだ。飼い主を変えたくなれば結婚に後悔してしまう、俺はそれだけは絶対にしたくない。俺の番選びだけは必ずや正しいと愛妻家の拳に力を込めた夫は、キッチンのシンクと睨めっこし自身の真っ黒な顔を見た。

「穏やかに過ごせ」

 確かに頭に血が上ってる俺がいる。なんだかSNSに来るとすごく妻を否定してくる人が多いからだ。子なし主婦は40も過ぎると子持ち絶許になり、夫に飛び火するだとか無理矢理お前の器量を狭めようとしたりだとか、脅しつけて来たりだとか、すごく喧嘩を売られるから当然とも言える。

「でしょうね。私に反骨心を抱かせている」

 説教物ばかり読み漁る夫は、彼女の説教の説得力に類をみないものを感じていた。女が俺に向かって文句も、小言に聴こえない?他のSNS女性の文句だったり説教は情の欠片もなく男性を虐げたいだけばかりのストレス発散の欲として聴こえるが多いが、彼女の言い回しはそうではない。

 その前の文通は、浮気男が如何にダメ夫かと説かれ、確かに彼女を意識した途端にみるみる浮気できなくなってもいた。
これは、彼女の言説に縛りつけられている。俺はなんのペットだ?と痛い頭の首を夫は回した。言葉の気になり方が、乞うているのか?犬らしく。

「それも悪くないと思ってしまう。穏やかに過ごしたいという俺も確かにいる。思春期は終わりか?お前との青春を終わらせるぞ」
「言われた側からもう試してるし。それに、彼女の後段は私の望む未來とは違う。この私がアナタに我慢を覚える?嫌になる?疲れる?舐めないで欲しいんだけど」

 妻、芳乃はヤンデレのオーラを膨らませ、夫を弾き飛ばす。

「くっ、であれば元姫だとドレスを脱げ、ジーパンに履きかけるんだ。散歩に行くぞ」
「意味不明!アナタも彼女もみんなも意味不明!」

♢♢♢

「よっこいしょ。青春って感じするな♡」

 お前の言いなりが幸せだと教えてくれと、夫は妻をおんぶした。

「ちゅ。気持ちよくしてあげるから期待してて♡」

 気持ちよくなれる散歩ってなんだ?と夫は、ワンワン興奮してきたとおんぶしたまま跳ね、身体が軽いのにふくよかな胸を何度も背中に当てる。

「動けません」

 夫はズボンを気にしたまま動けなくなってしまった。

「足ピンピンさせてビンビンなまま行って!」

 妻は、夫の尻をムチのように叩くと、夫はロボットの様に前進し始める。それは帰ってくる頃には日を跨いでしまう程の遅さだった。

「立ち上がれ立ち上がれ立ち上がれチンダム君を乗せてえ〜♪」

 爆美女といると誰しもオッサン化が進むままに、替え歌を歌い出した彼は、歩行速度を上げた。

「蹴破りなさい。チンダム」

 妻の操作のまま夫は蹴り出すが、三枚門は引かないと開かない。

「自分で考えてよ、AIの時代よ」

 夫は自律を許され、引戸を引き散歩に出発した。

♢♢♢

「ふ〜さっむ」

 なんと夫は、ノースリーブ。極寒に今にも死にそうな声をあげる。

「ギュッてするだけじゃ熱エネルギー足りない?」
「首に腕を回してくれ」

 妻は、夫の両肩に手を添えていたが、首に腕を回すと、それがマフラーとなり、自尊物が膨張し、顔面が誇大し、強心臓を手に入れた。

「オラオラして来たでしょ?あそこまで走ってみて」
「やっぱり、俺はお前に無理し続けたいよ、死ぬまでずっと」
「わかってる。着いたら、ご褒美用意するね」

 妻をおんぶしたまま走り出した肉体派の夫は、年齢を重ねることを知らん身に心配ゴム用と走り出す。

♢♢♢

「えっちな私を好きでいてください」

 目的地に着いて、妻を地に降ろすと、彼女は夫をハグする。

「あったけえ〜ストゼロ女子〜」

 公衆で綺麗な顔ばかりすることしか覚えがないオバサンとはまるで違った公衆の前で、酒でもガブ飲みしてんのか若い子女子道忘れぬ妻に、夫はお前とならいつまでも若くいられると、年明けにもクリスマスハグする。タンクトップダサすぎでも人目気にすんな、客観視ばかりの生き方しか説けないしょうもない女にだけはなんなと強く強く抱きしめる。

「キスしちゃおっか。あっついの」
「俺以外なにも気になんねえのかよ」

 夫以外のことばかり気にする女子では出来ないことをやってのける妻と、迎え入れるのどっちにすると目配せしてるうちに、二人の顔は自然と近づいていく。

「ちゅ」

 静かに始まった接吻の音は、次第に激しさを増していき、公然猥褻罪で捕まりそうと二人はその辺にしておいた。

「温かくなった?」
「人類史上最幸に満たされる」

 見とったお前ら全員俺が殺すぞと、総長にまで気が高まった夫は、お前が代わりに俺に殺されろと手を掴む。

「ちょっとどこ行くの、家はあっちでしょ」

 女の犬が女のリードを引っ張りどっか行こうとする。しかし、ホテルなんて何処にもない。

「しょんべんだって!俺、お前の犬だからさあ!」
「ご主人様にかけないの!」
「俺はお前に外で扱かれてんだよ!社会的に死にてんだよ!ヤンキーだからあ!」

 恐怖的なまでに愛妻家の夫は、其処にいる誰しも全員を敵に回すかのように吠える夜の街。極めれば不死鳥。甦りも覚えればデスフェニックス。火と闇文明な男。愛妻マスターズ(LM)殿堂入りカードな男を狙う目つきになった。

 そんな彼の奥さんに手が届く距離まで近づいたらどうなってしまうのだろうか。

「警察が来たらどうするの!」
「じゃかしんじゃ!愛し合ってんだろうがあ!公務執行妨害すんぞオラア!人様の家庭愛を愚弄しよるにしょっぴくのは俺様だオラア!オラアアwww」
「ねえ、想像してみて?手でしてあげてるのに、それはいくらなんでもダサい」
「だったら庭でしてくれ。犬小屋も立るわ」

 これが夫婦愛の最高潮だ馬鹿タレ、そうさせてくれる妻に文句あんのかこの野郎と巳年な巻き舌を遊ばせながら夫は大人しく帰宅したのだった。

 そんな晩が大人しいはずは当然としてないものである。
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