【マンガシナリオ】シークレット・ラブ。
第二話「擬似恋愛の提案」
〇翌週の月曜日の朝、琴夏の部屋
目覚ましが部屋に鳴り響く。琴夏はスマホを手に取りアラームを止めた。
琴夏「眠れなかった……」
ベッドの上でぼーっとする。この土日、まともに眠れなかった琴夏。ため息をつきながら体を起こす。
すると手に持っていたスマホが震えた。メッセージを受信したスマホを見る琴夏。
スマホのメッセージ(北星から)
『先週は悪かった。これからのこと話したいからさっさと着替えて降りてこい。玄関前で待ってる』
琴夏「はぁぁぁぁぁ!?」
寝ぼけながらメッセージを読むとそう書かれていて琴夏は思わず叫ぶ。琴夏は慌ててベッドから降り、窓の外を見る。
琴夏「うわぁ……マジでいるじゃん。一緒に登校とか何年ぶりよ」
スマホを握りしめながら窓の外を見る。そこには壁に寄りかかる北星がいて、目が合った。
だけどその後すぐに目を逸らす。
幼なじみだけどそこまで仲がいいという訳ではないふたり。この土日は何もメッセージがなかったのに急に一緒に行くことになり戸惑う琴夏。
琴夏の母親「琴夏ー!いい加減起きなさい!外で北星くん待ってるわよ!」
ぼうっとしてるとしたからお母さんの声が聞こえた。ハッとして顔を上げると壁に寄りかかっていた北星が居ない。
まさか……と顔を青ざめながら下に降りた。
琴夏の母親「あんた、はしたないわね。まだパジャマなの?北星くん、玄関で待ってるわよ」
琴夏「お母さん、なんで北星を家に上げたの!」
慌てて降りてきた琴夏を見て母親はため息をつく。それを見た北星は琴夏を見ながら笑った。
北星「おはよう。お前、ほんと相変わらずだな。さっき目が合ったから支度終わってるのかと思った」
琴夏の母親「ほんと、ごめんなさいねぇ。ほら、さっさと着替えて学校に行きなさい」
北星と琴夏のやり取りを見てにやける母親。
琴夏「お母さん、違うからね!そういう意味じゃないからね!」
琴夏「(お母さん、絶対勘違いしてるよ!北星も笑ってないで誤解を解いて!)」
心の中で叫ぶ琴夏。琴夏の母親は琴夏と北星が恋人同士だという勘違いをしていた。母親に押されながら琴夏は部屋に戻った。
〇学校前の坂道、並んで歩く
琴夏と北星「……」
もうすぐ学校に着くというのにお互いに話さないふたり。時折同じ学校の生徒が不思議そうに見ながら通り過ぎる。
ヒソヒソ話や明らかな嫉妬の目を向けられることも。琴夏は下を向きながら歩く。
しばらくすると北星が琴夏に近づき、琴夏の手を握る。
琴夏「ちょ、ちょっと……北星!?」
驚いた琴夏は顔を上げる。
北星「言っただろ。琴夏、今は俺の“恋人”だ。みんなに見せつけなきゃ意味が無い」
驚く琴夏を他所に顔色1つ変えない北星。久しぶりに繋いだ手にドキドキしながら話す琴夏。
琴夏「で、でも、あれは……その場しのぎの言い訳だよね?だから、こんなことしなくても……」
北星「相手はあの月島楓和だぞ?アイツの性格、お前も知ってるだろ。それなりに見せなきゃ納得しねーだろ」
琴夏「……確かに」
楓和ちゃんは一度好きになったら納得するまでその人に付きまとう。ヤンデレ気質というか、メンヘラというか……。
とにかく、一度目をつけられたらしばらく楓和ちゃんから逃げられない。学年一可愛い楓和ちゃんにそういう一面がある。
生徒1「ね、ねぇ……。あれって高比良くんじゃない!?なんで女の子と歩いているの!?」
生徒2「知ってる!あの人、高比良くんの幼なじみだよ!」
同じ制服を着た生徒と目が合う度何か言われる。北星は繋いだ手を離さないまま学校に向かった。
〇四時間目の体育、体育館の隅っこ
由奈「“ニセモノの恋人!?”」
琴夏「しーっ!誰かに聞かれたらどうするの!それに、まだそうと決まった訳じゃないから!」
琴夏から北星との関係を告白された友人の蓮見由奈は驚きのあまり大声を出す。それを琴夏に否定された。
由奈「え?だって、高比良くんに“今日からコイツと付き合うから”って言われたんでしょ?」
北星のマネをしながら疑問をぶつける由奈。由奈は持っていたボールを琴夏にパスする。ちなみに体育の内容はバスケ。
琴夏「(由奈、北星の声真似上手いな……。やっぱり由奈に話したの間違いだったかな)」
琴夏「そ、そうだけど……その場しのぎって普通思うじゃん?北星、あんなだし……」
そう言って同じクラスでバスケの試合をしてる北星を見る。バスケ部でもある北星は次々とシュートを決め、周りの女子は目をハートにして北星を見ていた。
シュートが決まる度に悲鳴が上がる体育館。それを聴きながらため息をつく琴夏。
由奈「まぁ、確かにね……。相手が月島楓和なら尚更か」
由奈もその光景を見て苦笑い。
由奈「でもさ、本当に高比良くんが琴夏のことを好きって言ったらどうするの?」
琴夏「えー。それはないよ。だって今までも幼なじみとして関わってきただけで……その気持ちはないと思う。実際、私も北星のこと異性として見てないし」
由奈が不意に聞いてくる。琴夏は戸惑いながらも迷いなく答えた。北星は驚くほど今まで必要以上に接して来なかった。
そのせいもあって琴夏は北星のことを異性として見ていなかった。
北星「……へー。それは好都合だな」
琴夏「ひゃあああ!北星!いつの間に!」
由奈と琴夏が話していると後ろから北星の声が。驚いた琴夏は由奈に抱きつく。北星は汗をTシャツで拭いながらボールを抱えている。
北星「それじゃあ俺が考えてること、琴夏なら受け入れてくれるな?」
琴夏「さ、作戦?」
北星「それは昼休み話す。ほら、今も月島が見てるぞ?彼女ならタオルくらい差し入れしたらどうだ?」
琴夏「タ、タオルなんてないわよ……」
ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべながら琴夏に迫る北星。あまりの近さに琴夏の心臓はドキドキ高鳴る。
由奈「(……この2人、私がいること忘れてるね。はぁ)」
由奈「高比良くん。そんなだから琴夏の心を掴めないのよ?もう少し考えて行動したらどう?……琴夏、行こ」
この状況に耐えられなくなった由奈は琴夏を引っ張って試合に参加。北星は体育館の隅に取り残された。
〇昼休み、空き教室
体育終了後。琴夏は北星に呼び出された。お昼ご飯を一緒に食べることになる。
北星「……なぁ」
琴夏「は、はい!」
2人きりの気まずい雰囲気。北星に呼ばれ、驚く琴夏。
北星「本当に俺の事、男として見れない?」
琴夏「(え……?どういうこと?)」
まっすぐ琴夏のことを見つめる北星。その目にドキッとする琴夏。だんだんと北星の顔が琴夏に近づく。
北星「さっきの作戦なんだけど。本当に俺の“ニセモノの恋人”としてやってみないか?」
琴夏「ニセモノ……」
北星「あれから考えたけど、月島のやつ、やっぱり俺の事付きまとってくるし、他の女子からの告白ももう疲れて。彼女がいればとりあえず落ち着くかなと思って」
たんたんと提案のわけを話す北星。それを呆然と聞く琴夏。2人きりの空き教室に響く2人の心臓の音。
琴夏「(それって……私が北星に利用されるってことになるのかな。だとしたらなんかヤダな……)」
真剣に北星は話すが琴夏は冷静に考える。
琴夏「……なんで、私?私以外にも可愛い子いるじゃない。多分私よりも北星を好きだって言ってくれる女の子の方が……」
北星「お前じゃなきゃこんなこと頼まない。なぁ、頼む。琴夏のことは全力で守るから。少しの間だけでも……“俺と恋愛してみないか?”」
北星との恋愛を提案され、琴夏は迷った。だけどあまりにも真剣に見つめられ、その圧に負けて頷く。
琴夏「わかった。それで北星が楽になるなら……」
北星「ありがとう。マジで琴夏のこと大事にするから。覚悟しとけよ?」
北星が琴夏の顔に近づき、おでこにキスをする。
琴夏「なっ……い、今……」
北星「油断してた琴夏が悪い」
こうして2人の擬似恋愛ならぬ“ニセモノの恋人”としての生活が始まった。