私がヤンキー校の勝利の女神!?
1
親の都合で転校が確定した。そして兄の都合で学校を決められて……。
まぁ、そこはいい。別に可愛い制服でなくても、女子が少なくても。
だけどどうして数ある学校の中から、ヤンキーだらけの学校で頑張らなければいけないんですか!?
・ ・ ・ ・
どうやら私が通う予定である学校は、巷で有名なヤンキー高校なのだそう。
目立ちたがり屋や喧嘩好きの不良達に人気な高校。
そのせいか、女子の入学は滅多にない。しかもほとんどが素行の悪い男子達。
兄には「俺が出た学校だし大丈夫だって」と何をもって大丈夫なのかもわからないまま転入の手続きを終わらせられてしまった。
こんなことなら誰かに任せず自分で行きたい学校を探しておくべきだった。
兄が暴力を振るうのをよく見ていたし、それを怖いと思っていた。
だからこそ関わるまいと思っていたのに……。
今更後悔しても遅いのはわかっている。
だからこそ私は今、明日通う予定の学校の校門に立っているのだ。
授業中を狙ったはずなのになぜかうろついている学ランの男子がちらほら。すでにもう帰りたい。
私が私服だということもあって、男子は「喧嘩か?」「ナンパか?」と目をギラギラさせている。
門を通れば声をかけられるかもしれない。そう思うと気が気ではない。
先生が出てきてくれればどうとでもなるのだが、授業をしているか職員室に籠っているのだろう。誰も出てくる様子はない。
いっそあの中の誰かに話しかけて職員室に連れてってもらう?
いやでも怖い。この学校にいる時点で危険人物にしか見えない。
「校門前でずっと何してんだよ」
「ひぃっ! ご、ごめんなさい!!」
私の背後から声をかけてきたということは、遅刻確定の不良なのは間違いない。
振り返り顔も見ずに勢いよく深く頭を下げると、その男子は大きくため息を吐いた。
「……別に、取って食ったりしねぇよ。で、誰かに用か?」
「あ……私、明日からこの学校に通うこととなりました夢咲一華です。今日は制服とタブレット端末を受け取りに――」
顔を上げてそう言えば、一瞬だけギョッとした顔をした。だがすぐに目を逸らされてしまった。
「職員室か」
「そ、そうです。職員室に行きたいです」
ついて来いとも言わず、その男子はスタスタと歩き始めてしまい、慌てて後ろからついていく。
多分職員室に連れて行ってくれるよね?
淡い期待を抱きつつ、誰かに話しかけられないかびくびく。足の速い男子に置いていかれまいと必死に駆け足。
「職員室」と書かれた教室プレートが見えたかと思えば、ここまで連れてきてくれた男子はガラリと勢いよく引き戸を開ける。
「転入生連れてきた」
「え、一矢!?」
1人でパソコンと睨めっこしていた先生は、男子を見て驚愕。そして私を見て安堵した表情を浮かべた。
「一矢、ありがとうな」
一矢と呼ばれた男子は、感謝の言葉を無視してそのまま廊下の窓から外へと出て行ってしまった。
この学校土足だから外に出るの簡単だなぁと変な視点でその様子を見ていると、先生が私と視線を合わせるように屈んで話しかけてくれた。
「君が夢咲一華さん? ごめんね、まさかもう学校に来ているとは思わなくって」
「道をまだ覚えてなかったので早めに出発したんです。そしたら思いのほか早く着いちゃって」
「そっか。真面目な女子には大変な学校だろうけど、何かあれば俺に相談してね」
「ありがとうございます。あの、本当にここ、不良ばっかりなんですか……?」
「残念ながらそうだね。君はお兄さんが卒業生だからここに決めたみたいだけど、本当に良かったの?」
「正直今すぐ他の学校に行きたいです。でも、家から近いし学費も安かったし……あと、兄がすごく推していたので」
「なるほど。お兄さんみたいなタイプなら喜んでここを志望したんだろうねぇ」
乾いた笑みを浮かべた先生に、苦労しているんだろうなと勝手に同情をした。
と言っても私もここの生徒となるのだから、自身も苦労することになるだろうと思うと気が重い。
先生から明日の予定を聞いて、学校の見取り図をもらって。セーラー服や学校で使うタブレット端末を受け取る。
「君が自分で壊すことはないと思うけど、タブレットは壊れたら弁償になるから気をつけてね」
「わかりました。……壊された場合って相手に弁償してもらえますか?」
「あはは、そうだね。まぁ、君は女の子で普通の子だから大丈夫だと思うよ」
「それなら、いいんですけど」
不良だらけで因縁をいつもつけられていた兄がいるため、なんとなく警戒してしまう。
私が大人しくしていれば絡まれることもない、はずだろうけれど。
「女子はクラスに何人いますか?」
「うちの学校に今女子はいないよ……」
「え、私だけってことですか?」
「うん。卒業生には何人かいるんだけどね」
皆、強い子だったよ。とどこか遠い目をしている先生。
強いって物理的? 精神的? 怖くて聞けなかった私は「そうですか」と反応するのがやっとだった――。
「ありがとうございました」
職員室を後にして足早に校門へと進む。誰かに話しかけられる前に撤退しよう。
どうせ明日から嫌でも付き合うんだから。と思った矢先、校門近くで職員室まで連れて行ってくれた男子……一矢さんと目が合う。
私を待っていた……わけないよね?
「さっきはありがとうございました!」
「礼は良い」
私が校門から出たのを確認した一矢さんは、「寄り道するなよ」とだけ言って一度も振り向くことなく学校へと入って言った。
「もしかして、優しい?」
顔と名前を覚えておこう。
そう思った私は、『黒髪で目つきがちょっと悪い人。名前は一矢(いちや)』とスマートフォンにメモを残したのだった。
まぁ、そこはいい。別に可愛い制服でなくても、女子が少なくても。
だけどどうして数ある学校の中から、ヤンキーだらけの学校で頑張らなければいけないんですか!?
・ ・ ・ ・
どうやら私が通う予定である学校は、巷で有名なヤンキー高校なのだそう。
目立ちたがり屋や喧嘩好きの不良達に人気な高校。
そのせいか、女子の入学は滅多にない。しかもほとんどが素行の悪い男子達。
兄には「俺が出た学校だし大丈夫だって」と何をもって大丈夫なのかもわからないまま転入の手続きを終わらせられてしまった。
こんなことなら誰かに任せず自分で行きたい学校を探しておくべきだった。
兄が暴力を振るうのをよく見ていたし、それを怖いと思っていた。
だからこそ関わるまいと思っていたのに……。
今更後悔しても遅いのはわかっている。
だからこそ私は今、明日通う予定の学校の校門に立っているのだ。
授業中を狙ったはずなのになぜかうろついている学ランの男子がちらほら。すでにもう帰りたい。
私が私服だということもあって、男子は「喧嘩か?」「ナンパか?」と目をギラギラさせている。
門を通れば声をかけられるかもしれない。そう思うと気が気ではない。
先生が出てきてくれればどうとでもなるのだが、授業をしているか職員室に籠っているのだろう。誰も出てくる様子はない。
いっそあの中の誰かに話しかけて職員室に連れてってもらう?
いやでも怖い。この学校にいる時点で危険人物にしか見えない。
「校門前でずっと何してんだよ」
「ひぃっ! ご、ごめんなさい!!」
私の背後から声をかけてきたということは、遅刻確定の不良なのは間違いない。
振り返り顔も見ずに勢いよく深く頭を下げると、その男子は大きくため息を吐いた。
「……別に、取って食ったりしねぇよ。で、誰かに用か?」
「あ……私、明日からこの学校に通うこととなりました夢咲一華です。今日は制服とタブレット端末を受け取りに――」
顔を上げてそう言えば、一瞬だけギョッとした顔をした。だがすぐに目を逸らされてしまった。
「職員室か」
「そ、そうです。職員室に行きたいです」
ついて来いとも言わず、その男子はスタスタと歩き始めてしまい、慌てて後ろからついていく。
多分職員室に連れて行ってくれるよね?
淡い期待を抱きつつ、誰かに話しかけられないかびくびく。足の速い男子に置いていかれまいと必死に駆け足。
「職員室」と書かれた教室プレートが見えたかと思えば、ここまで連れてきてくれた男子はガラリと勢いよく引き戸を開ける。
「転入生連れてきた」
「え、一矢!?」
1人でパソコンと睨めっこしていた先生は、男子を見て驚愕。そして私を見て安堵した表情を浮かべた。
「一矢、ありがとうな」
一矢と呼ばれた男子は、感謝の言葉を無視してそのまま廊下の窓から外へと出て行ってしまった。
この学校土足だから外に出るの簡単だなぁと変な視点でその様子を見ていると、先生が私と視線を合わせるように屈んで話しかけてくれた。
「君が夢咲一華さん? ごめんね、まさかもう学校に来ているとは思わなくって」
「道をまだ覚えてなかったので早めに出発したんです。そしたら思いのほか早く着いちゃって」
「そっか。真面目な女子には大変な学校だろうけど、何かあれば俺に相談してね」
「ありがとうございます。あの、本当にここ、不良ばっかりなんですか……?」
「残念ながらそうだね。君はお兄さんが卒業生だからここに決めたみたいだけど、本当に良かったの?」
「正直今すぐ他の学校に行きたいです。でも、家から近いし学費も安かったし……あと、兄がすごく推していたので」
「なるほど。お兄さんみたいなタイプなら喜んでここを志望したんだろうねぇ」
乾いた笑みを浮かべた先生に、苦労しているんだろうなと勝手に同情をした。
と言っても私もここの生徒となるのだから、自身も苦労することになるだろうと思うと気が重い。
先生から明日の予定を聞いて、学校の見取り図をもらって。セーラー服や学校で使うタブレット端末を受け取る。
「君が自分で壊すことはないと思うけど、タブレットは壊れたら弁償になるから気をつけてね」
「わかりました。……壊された場合って相手に弁償してもらえますか?」
「あはは、そうだね。まぁ、君は女の子で普通の子だから大丈夫だと思うよ」
「それなら、いいんですけど」
不良だらけで因縁をいつもつけられていた兄がいるため、なんとなく警戒してしまう。
私が大人しくしていれば絡まれることもない、はずだろうけれど。
「女子はクラスに何人いますか?」
「うちの学校に今女子はいないよ……」
「え、私だけってことですか?」
「うん。卒業生には何人かいるんだけどね」
皆、強い子だったよ。とどこか遠い目をしている先生。
強いって物理的? 精神的? 怖くて聞けなかった私は「そうですか」と反応するのがやっとだった――。
「ありがとうございました」
職員室を後にして足早に校門へと進む。誰かに話しかけられる前に撤退しよう。
どうせ明日から嫌でも付き合うんだから。と思った矢先、校門近くで職員室まで連れて行ってくれた男子……一矢さんと目が合う。
私を待っていた……わけないよね?
「さっきはありがとうございました!」
「礼は良い」
私が校門から出たのを確認した一矢さんは、「寄り道するなよ」とだけ言って一度も振り向くことなく学校へと入って言った。
「もしかして、優しい?」
顔と名前を覚えておこう。
そう思った私は、『黒髪で目つきがちょっと悪い人。名前は一矢(いちや)』とスマートフォンにメモを残したのだった。
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