私がヤンキー校の勝利の女神!?
10
体育館に入れば、各自好きなように過ごしていた。
自習ということもあり、人数は少ない。
だが、体育館はいつでも解放されているわけでもないので、好き勝手できるのはこの時間だけ。
喜んで大量のボールを放出している姿が目に入る。
ただ、これらすべてを片付けずに帰るのが普通らしく、いつも先生たちがボールの回収を頑張っているのだとか。
自習の時も1人は先生をつけた方がいいのでは……。
眞大君がステージのところで座っているのが見えた。
私は他の人の邪魔にならないよう、ボールに当たらないよう避けながら進む。
隣には真君もいて、何かしていたのか汗をかいていた。
足元にはバスケットボールが置いてあることから、眞大君と1on1でもしていたのだろうか。
といっても眞大君はあまり汗をかいていなかったが……。
「眞大君」
「ああ、一華。……? その手に持っているものは何?」
「眞大君への果たし状らしいよ。さっき渡されたの」
「ふぅん。わざわざ一華に、ね」
封を切って、折りたたまれた紙を開く。
そこには「放課後、体育館裏に来い。怖かったら助っ人を呼んでも構わない」と書かれている。
その次には「ただし、夢咲一華は連れて来るな」と強調するように大きな文字で書かれている。
「一華に来てもらう予定はなかったけど、何か裏がありそうな書き方だね」
「助っ人呼んでもいいってのも引っかかるな」
「私、眞大君一緒にいた方がいいのかな? でも、邪魔になるしなぁ」
「一華は強くなったよ。だから自信持っていい」
「嬉しくないよ!?」
相手からの攻撃を避けるなど、自分の身を守ることに手一杯だが、相手の攻撃を避けることも喧嘩の醍醐味。と褒められたことがある。
……本当に本当に嬉しくないが。
「助っ人は多分一矢と天海を指していると思う。一華絡みでよく一緒にいたからね」
「じゃあ、一華を孤立させたいとかか?」
「その可能性はあるだろうね」
果たし状を破り丸めた後、体育館に設置されているゴミ箱へと投げ入れる。
かなり距離があったのにあっさりと入れてしまう眞大君。
しかも果し状の内容に動揺せず、むしろ面白そうにしている眞大君。この人に弱点はあるのかと聞きたくなってしまう。
「終わるまで職員室で待たせてもらえればいいんじゃないかな?」
「残念だけど、先生たちは会議があるって言ってたよ」
「そっか。忘れてた」
「それも把握済みってことか?」
「そうだろうね。僕が消えれば自分がトップになれると思ってるヤツは意外といる。ここで僕をトップから引きずり下ろしたいんだろう」
「でも、私を人質にしたところで眞大君は揺らがないだろうし大丈夫なんじゃ?」
「そんなことないよ。僕の唯一の欠点は君だ」
眞大君が私の頬に手を触れそうになったところで真君が手をはたき落とす。
「俺がいる前でヤメロ」
「わざとだからね」
叩かれた手を気にせず、真君に笑いかける。少し怒っているようにも見えたが、きっと気のせいだろう。
私に本当に好意を寄せているとは考えにくい。
今じゃ真君も私と会話をしていても赤面することもなくなった。慣れか興味をなくしたかどちらだろう。
今も好きかと聞く勇気はないけれど。
「天海と一緒に保健室にいてもらうっていうのはいいかもね」
「あいつが引き受けてくれると思うか?」
「喧嘩に参加するか、一華と一緒にいるかの2択だったら一華と一緒にいると思うよ」
「あー、その2択ならありえるか……」
私をどうするか、真君は眞大君と一緒に行くのか。など話していると、授業の終わるチャイムが鳴った。
自習だったからよかったものの、ほとんど作戦会議に使うことにはなるとは思いもしなかった。
◇
「どっちも嫌だけど」
放課後、ずっと保健室で寝ていた天海君に私と一緒に喧嘩が終わるまで居て欲しいと話した。
面倒臭いことが嫌いな天海君は、喧嘩も保健室で待っていることも拒否。
学校にいること自体が嫌だったらしく顔をしかめていた。
「一華に何かあったらどうするの」
「オレには関係ない。裏正の問題でしょ」
「じゃあ、私は天海君と一緒に帰るっていうのはどう?」
「道違うんだからすぐわかれちまうだろーが」
「学校から離れても安心かわからないからね」
そこで一度皆口を閉ざした。
真君は「あ」と声を出し私を指差した。
「はじめに迎えに来てもらえばいいじゃねーか!」
「残念なことに、今日は在宅勤務じゃないから家にいないよ」
「使えねー……」
私、眞大君、真君の3人で他にいい案はないか考えていた。
だが、そうそう良い案は見つからず、4人しかいない教室は静寂に包まれていた。
天海君は大きくため息を吐いた後、諦めたように投げやりな言い方で言葉を発した。
「はいはい。オレが面倒みればいいんでしょ。捕まっても文句言わないでよね」
「文句は言う。絶対言う」
「一矢……」
真君の発言に頷く眞大君。それに対して呆れ顔の天海君。
ほら、歩く。と天海君に腕を引かれ眞大君と真君に別れの挨拶もできずに保健室を出た。
「ごめんね、天海君。ありがとう」
「謝るくらいなら頼まないでよね」
そう言いつつも私の歩く速度に合わせてくれる天海君。
ツンデレってやつだね。
手首を握ったまま歩く姿はまるでカップルのようだ。
自虐に過ぎるかもしれないが、正直顔が綺麗過ぎる天海君とは不釣り合いな気もする。
「家どこだっけ」
「家まで送ってくれるの?」
「じゃないと怒られるのオレじゃん」
こっちだよと指差し足早に歩く。私が狙われている可能性があるからなのか、ただ早く帰りたいだけなのか。
どちからわからないが、家に送ってもらえるのはありがたい。
「天海君もやっぱりあの学校でトップを取るために入ったの?」
「入学したての頃はやる気はあったのは確かだよ。でも、今は裏正とやり合うの苦手で諦め気味。……一華を彼女にすれば勝てるかな」
「……彼氏は自分で選ばせて欲しい、な」
「オレじゃダメなわけ?」
足を止めて私を見た天海君。好意があるのかもわからない。告白とも取りにくい言い方で私を見つめてくる。
眞大君だって別に私に好意があるわけではないだろうし、少し複雑な気分になってきてしまう。
「ダメ、じゃないけど……」
「好きならいいんだ?」
「う、うん。そうだね」
やっぱり心から私のことを好きになってくれる人がいいなと思う。
今の学校じゃ叶わないだろうから、高校卒業してからになるだろうけれど。
「あ、靴紐ほどけた。結ぶから勝手に動かないでよね」
天海君は手を離し靴紐を結び始める。
それをじっと眺めていると、突然首に大きな衝撃を受け私の視界は真っ暗になってしまった。
自習ということもあり、人数は少ない。
だが、体育館はいつでも解放されているわけでもないので、好き勝手できるのはこの時間だけ。
喜んで大量のボールを放出している姿が目に入る。
ただ、これらすべてを片付けずに帰るのが普通らしく、いつも先生たちがボールの回収を頑張っているのだとか。
自習の時も1人は先生をつけた方がいいのでは……。
眞大君がステージのところで座っているのが見えた。
私は他の人の邪魔にならないよう、ボールに当たらないよう避けながら進む。
隣には真君もいて、何かしていたのか汗をかいていた。
足元にはバスケットボールが置いてあることから、眞大君と1on1でもしていたのだろうか。
といっても眞大君はあまり汗をかいていなかったが……。
「眞大君」
「ああ、一華。……? その手に持っているものは何?」
「眞大君への果たし状らしいよ。さっき渡されたの」
「ふぅん。わざわざ一華に、ね」
封を切って、折りたたまれた紙を開く。
そこには「放課後、体育館裏に来い。怖かったら助っ人を呼んでも構わない」と書かれている。
その次には「ただし、夢咲一華は連れて来るな」と強調するように大きな文字で書かれている。
「一華に来てもらう予定はなかったけど、何か裏がありそうな書き方だね」
「助っ人呼んでもいいってのも引っかかるな」
「私、眞大君一緒にいた方がいいのかな? でも、邪魔になるしなぁ」
「一華は強くなったよ。だから自信持っていい」
「嬉しくないよ!?」
相手からの攻撃を避けるなど、自分の身を守ることに手一杯だが、相手の攻撃を避けることも喧嘩の醍醐味。と褒められたことがある。
……本当に本当に嬉しくないが。
「助っ人は多分一矢と天海を指していると思う。一華絡みでよく一緒にいたからね」
「じゃあ、一華を孤立させたいとかか?」
「その可能性はあるだろうね」
果たし状を破り丸めた後、体育館に設置されているゴミ箱へと投げ入れる。
かなり距離があったのにあっさりと入れてしまう眞大君。
しかも果し状の内容に動揺せず、むしろ面白そうにしている眞大君。この人に弱点はあるのかと聞きたくなってしまう。
「終わるまで職員室で待たせてもらえればいいんじゃないかな?」
「残念だけど、先生たちは会議があるって言ってたよ」
「そっか。忘れてた」
「それも把握済みってことか?」
「そうだろうね。僕が消えれば自分がトップになれると思ってるヤツは意外といる。ここで僕をトップから引きずり下ろしたいんだろう」
「でも、私を人質にしたところで眞大君は揺らがないだろうし大丈夫なんじゃ?」
「そんなことないよ。僕の唯一の欠点は君だ」
眞大君が私の頬に手を触れそうになったところで真君が手をはたき落とす。
「俺がいる前でヤメロ」
「わざとだからね」
叩かれた手を気にせず、真君に笑いかける。少し怒っているようにも見えたが、きっと気のせいだろう。
私に本当に好意を寄せているとは考えにくい。
今じゃ真君も私と会話をしていても赤面することもなくなった。慣れか興味をなくしたかどちらだろう。
今も好きかと聞く勇気はないけれど。
「天海と一緒に保健室にいてもらうっていうのはいいかもね」
「あいつが引き受けてくれると思うか?」
「喧嘩に参加するか、一華と一緒にいるかの2択だったら一華と一緒にいると思うよ」
「あー、その2択ならありえるか……」
私をどうするか、真君は眞大君と一緒に行くのか。など話していると、授業の終わるチャイムが鳴った。
自習だったからよかったものの、ほとんど作戦会議に使うことにはなるとは思いもしなかった。
◇
「どっちも嫌だけど」
放課後、ずっと保健室で寝ていた天海君に私と一緒に喧嘩が終わるまで居て欲しいと話した。
面倒臭いことが嫌いな天海君は、喧嘩も保健室で待っていることも拒否。
学校にいること自体が嫌だったらしく顔をしかめていた。
「一華に何かあったらどうするの」
「オレには関係ない。裏正の問題でしょ」
「じゃあ、私は天海君と一緒に帰るっていうのはどう?」
「道違うんだからすぐわかれちまうだろーが」
「学校から離れても安心かわからないからね」
そこで一度皆口を閉ざした。
真君は「あ」と声を出し私を指差した。
「はじめに迎えに来てもらえばいいじゃねーか!」
「残念なことに、今日は在宅勤務じゃないから家にいないよ」
「使えねー……」
私、眞大君、真君の3人で他にいい案はないか考えていた。
だが、そうそう良い案は見つからず、4人しかいない教室は静寂に包まれていた。
天海君は大きくため息を吐いた後、諦めたように投げやりな言い方で言葉を発した。
「はいはい。オレが面倒みればいいんでしょ。捕まっても文句言わないでよね」
「文句は言う。絶対言う」
「一矢……」
真君の発言に頷く眞大君。それに対して呆れ顔の天海君。
ほら、歩く。と天海君に腕を引かれ眞大君と真君に別れの挨拶もできずに保健室を出た。
「ごめんね、天海君。ありがとう」
「謝るくらいなら頼まないでよね」
そう言いつつも私の歩く速度に合わせてくれる天海君。
ツンデレってやつだね。
手首を握ったまま歩く姿はまるでカップルのようだ。
自虐に過ぎるかもしれないが、正直顔が綺麗過ぎる天海君とは不釣り合いな気もする。
「家どこだっけ」
「家まで送ってくれるの?」
「じゃないと怒られるのオレじゃん」
こっちだよと指差し足早に歩く。私が狙われている可能性があるからなのか、ただ早く帰りたいだけなのか。
どちからわからないが、家に送ってもらえるのはありがたい。
「天海君もやっぱりあの学校でトップを取るために入ったの?」
「入学したての頃はやる気はあったのは確かだよ。でも、今は裏正とやり合うの苦手で諦め気味。……一華を彼女にすれば勝てるかな」
「……彼氏は自分で選ばせて欲しい、な」
「オレじゃダメなわけ?」
足を止めて私を見た天海君。好意があるのかもわからない。告白とも取りにくい言い方で私を見つめてくる。
眞大君だって別に私に好意があるわけではないだろうし、少し複雑な気分になってきてしまう。
「ダメ、じゃないけど……」
「好きならいいんだ?」
「う、うん。そうだね」
やっぱり心から私のことを好きになってくれる人がいいなと思う。
今の学校じゃ叶わないだろうから、高校卒業してからになるだろうけれど。
「あ、靴紐ほどけた。結ぶから勝手に動かないでよね」
天海君は手を離し靴紐を結び始める。
それをじっと眺めていると、突然首に大きな衝撃を受け私の視界は真っ暗になってしまった。